156-参-内閣委員会-18号 平成15年07月10日

平成十五年七月十日(木曜日)
   午前十時開会
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   委員の異動
 七月八日
    辞任         補欠選任
     岡崎トミ子君     木俣 佳丈君
     信田 邦雄君     松井 孝治君
 七月九日
    辞任         補欠選任
     松井 孝治君     岡崎トミ子君
     小林美恵子君     緒方 靖夫君
 七月十日
    辞任         補欠選任
     岡崎トミ子君     谷  博之君
     木俣 佳丈君     松井 孝治君
     緒方 靖夫君     小林美恵子君
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  出席者は左のとおり。
    委員長         小川 敏夫君
    理 事
                亀井 郁夫君
                森下 博之君
                山下 善彦君
                長谷川 清君
                吉川 春子君
    委 員
                阿南 一成君
                岡田  広君
                竹山  裕君
                西銘順志郎君
                野沢 太三君
                山崎 正昭君
                川橋 幸子君
                谷  博之君
                松井 孝治君
                高野 博師君
                山口那津男君
                小林美恵子君
                島袋 宗康君
                黒岩 宇洋君
   事務局側
       常任委員会専門
       員        鴫谷  潤君
   参考人
       高崎経済大学地
       域政策学部助教
       授        八木 秀次君
       熊本県知事    潮谷 義子君
       日本弁護士連合
       会両性の平等に
       関する委員会元
       委員長      吉岡 睦子君
       フォーラム・「
       女性と労働21」
       事務局長     泉 ミツ子君
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  本日の会議に付した案件
○少子化社会対策基本法案(衆議院提出)

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○委員長(小川敏夫君) ただいまから内閣委員会を開会いたします。
 委員の異動について御報告いたします。
 本日までに、信田邦雄君及び岡崎トミ子さんが委員を辞任され、その補欠として松井孝治君及び谷博之君が選任されました。
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○委員長(小川敏夫君) 少子化社会対策基本法案を議題とし、参考人の方々から意見を聴取いたします。
 参考人を御紹介いたします。
 高崎経済大学地域政策学部助教授八木秀次君、熊本県知事潮谷義子さん、日本弁護士連合会両性の平等に関する委員会元委員長吉岡睦子さん及びフォーラム・「女性と労働21」事務局長泉ミツ子さん、以上四名の方々でございます。
 この際、参考人の方々に一言ごあいさつを申し上げます。
 本日は、御多用中のところを当委員会に御出席いただき、誠にありがとうございます。
 本法案につきまして、皆様から忌憚のない御意見をいただき、審査の参考にしたいと存じますので、よろしくお願い申し上げます。
 次に、議事の進め方について申し上げます。
 まず、参考人の皆様から、八木参考人、潮谷参考人、吉岡参考人、泉参考人の順に、お一人十五分以内で順次御意見をお述べいただき、その後、各委員からの質疑にお答えいただきたいと存じます。
 なお、参考人の御発言は着席のままで結構でございます。
 それでは、まず八木参考人からお願いいたします。八木参考人。

○参考人(八木秀次君) 八木でございます。
 お手元に資料といいますか、レジュメを二枚お配りしておりますので、ほぼそれに沿いながら進めてまいりたいと思います。
 まず、全体的なこの法案についての感想として、その性格がはっきりせず、様々な思惑が混在した呉越同舟の法案という感想を抱いております。目的は少子化対策なのか少子化社会対策なのかということすら不明であると思われるわけです。すなわち、前文の中に「少子化の進展に歯止めをかける」との文言がある一方で、また、その少子化を克服するという性格がある一方で、衆議院の議事録を見ますと、少子化をそのまま受け止めて現状に合う仕組みの改正を目指すという性格もあるということがうかがえるわけです。
 しかし、全体としては少子化を奇貨として社会構造を作り替える、あるいは少子化の原因を意識的にか見誤って、男女共同参画社会が進展していないがゆえに少子化なのであり、それが進展すれば少子化は解決するとの認識に立った男女共同参画社会を推進するための基本法、第二の男女共同参画社会基本法という性格を持っているように思われるわけです。それは以下の条文に明らかと思われます。
 第二条に「施策の基本理念」として掲げられておりますけれども、その一号、四号を見ますと、そこに書かれておりますのは、やはりここでも男女共同参画社会が整備されていない、それゆえに少子化であるという認識が示され、また、男女共同参画社会という環境を整備すれば少子化が解決されるかのような認識に立っております。
 また、衆議院における法案提案議員の発言からもそれは明らかであります。
 男女の固定的な性的役割分業を見直す、あるいは子育てをしたいという御婦人たちが安心して働けるような仕組みを作っていく、結婚や出産の妨げになっている社会の意識又は慣行、制度を是正していくということがこの法案の立法趣旨であるように思われるわけです。日本共産党は、この点、法案自体には反対しておりますけれども、この点におきましてはほぼ同じ認識を持っているように思われます。少子化の克服のためには女性が働き続けることと子供を生み、育てることをきちんと両立できる社会にしていくことが不可欠であるとの発言は、そう読み取れます。
 つまり、社会構造を男女共同参画の方向に一層改造していく、このことがこの法案の立法趣旨に思えるわけです。しかし、後述するように、これでは少子化の進展に歯止めを掛けることはできないと思われます。むしろ逆に、一層少子化を進展させると思われるわけです。
 そして、衆議院における修正によってその傾向は一層強まったと思われます。
 衆議院では、第一に、「生み育てる者」という文言が「生み、育てる者」、途中に点が入ったということでありますが、に修正されました。前者は産むことと育てることが連続し、産む者と育てる者とが同一人物であることを基本としながら、その他の者がサポートするというニュアンスがうかがえます。しかし、「生み、育てる者」となりますと、産む者と育てる者とが別人であるというニュアンスがあります。これは女性が働き続けることに伴って育児の社会化を推進するという趣旨の表現であろうと思われますが、第二条に言う「父母その他の保護者が子育てについての第一義的責任を有する」という文言に反していると思われます。
 また、一時、厚生白書でも否定的に扱われ、神話にすぎないとされてきた、三歳までは母親が自分の手で育てた方がいいという考え方も、今日では再評価され、三歳どころか八歳か十歳くらいまでは母親が中心の育児をした方がいいということが脳科学の研究者辺りから指摘されているところであります。さらに、育児の社会化は子供の質を劣化させるなどの弊害もかねて指摘されているところであります。
 そもそも、育児の社会化というものは、女性のプロレタリアート化、家族の廃止を目的として、エンゲルスの「家族・私有財産・国家の起源」で持ち出されてきた概念でありまして、これはロシア革命直後、レーニンが実践して失敗したものとされております。つまり、少年犯罪の増加で国家の屋台骨が侵されたということが伝えられているわけであります。子供の質の問題を重視しますと、あくまで家庭における母親を中心とした育児、もちろん父親やその他の者も積極的にかかわるということではありますけれども、その重要性を重視し、私としては原案に戻すべきではないかと思います。
 法案は、女性の労働者としての側面を強調する余り、教育者としての側面、育児者としての側面を軽視していると思われるわけです。母親は子供に命をつなぐ存在であるとともに文化をつなぐ存在であるということを重視すべきだと思います。このことを無視して少子化対策はあり得ないと考えるわけです。
 第二に、「もとより、結婚や出産は個人の決定に基づくものではあるが、」との文言が挿入されたことも問題と考えられます。これは、結婚、出産についての女性の自己決定権を明記したものととらえられておりますけれども、自己決定権なる概念は学説の一つにすぎず、法的概念としてはいまだ熟しておりません。それに、ここから女性のリプロダクティブヘルス・ライツという概念を読み取り、中絶の自由を正当化するおそれさえあると考えられます。堕胎は刑法で禁止されており、母体保護法で例外的に許されているものにすぎません。これは前文に言う「少子化の進展に歯止めをかける」の趣旨に大きく反していると考えられるからです。結婚や出産はもとより強制できるものではありません。そのことは言うまでもないことでありますから、この文言は不要であり、逆に独り歩きすることを私としては懸念をしております。これも原案に戻すべきだと思います。
 それよりも、この法案の大きな、より大きな問題としては、この法案がそもそも少子化の原因を見誤っているのではないかと思われるわけです。
 私の認識によりますと、少子化は銀行の不良債権と同じく、バブル経済の負の遺産なのです。出生率はバブル期に急激に下がっております。ごらんのとおり、一九八五年に始まるバブルから一九八六年、出生率一・七二がバブル崩壊を経てその後も大きく低下しているということがこの図表から読み取れるかと思います。
 三枚目ですが、バブルは若い世代のライフスタイルに大きな影響を与えました。バブル期のいわゆるDINKSからポストバブル期のシングルへと推移していったわけであります。今年度の国民生活白書にも次のようなことが書かれております。「若年が結婚しない理由として、自由に使えるお金が減ってしまうことや、やりたいことが制約されることをあげるひとが多い。」と、こういうことでありますが、これらは若年層がもっと豊かに、もっと自由を、もっと自己実現をという価値観を有し、それが結婚や、子供を生み、育てる喜びよりもすぐるものだと認識していることを物語るものであります。これが少子化の心理的要因であると思われます。
 バブル期に日本人の価値観は大きく転換いたしました。そして、それがバブル崩壊後もまだ戻っていないことに少子化の原因はあると思われるわけです。本当はそのことを真摯に国民に訴え、その克服に向けて教育、啓蒙する必要があると思われます。子供を生み、育てる喜びを語る必要があるかと思います。しかし、現状はその逆で、結婚の無意味と、出産、育児の大変さだけが強調されるわけです。そして、その傾向を後押ししているのが男女共同参画の推進と公的年金の賦課方式であります。
 男女共同参画は、女性は働くべし、生涯働き続けるべしといった価値観を推し広げました。出産、育児よりも社会進出の価値を説きました。確かに、女性の社会進出は社会に活力と潤いを与えるなどの効用はあります。しかし、子供は女性にしか産めず、それゆえ、結果として女性の社会進出は出産を抑制させております。だから、仕事と家庭の両立、家事、育児の男女共同参画、育児の社会化をという主張もありますけれども、現実には仕事と家庭、特に仕事と育児との両立は難しく、保育園の充実などの育児の社会化も弊害が多いことが指摘されております。
 また、女性の社会進出と少年犯罪の増大とは相関関係があるとの指摘が今日なされるようになってきております。以下、東京都立大学の前田雅英教授の本から一部引用しております。女性の社会進出と離婚の増加と犯罪の増加も一定の因果性があることは十分に推定されるというのが前田先生の見解であります。しかし、この前田教授は女性の社会進出を否定しているわけではありません。途中省略させていただきますけれども、時計の針は逆戻りしない、そもそも女性も社会で働く喜びは享受すべきだろう、こういうその認識に立っております。しかし、女性の社会進出の前提として、女性の社会進出は少年非行を増大させる因子である確率が非常に高いという冷厳な事実もきちんと認識しておかなければならないということを述べておられます。私も全くそう思っております。
 せめて、女性の社会進出にはマイナス面があるということ、子供の数の抑制の問題のみならず、子供の質の問題が生じるということを認識した上で、女性の現実的な働き方を考えるべきだろうと思います。例えば、いわゆるM字型就労はその一つではないかと思います。民間が女性の再雇用をすることが難しいのであれば、公的機関こそが率先して子育てが終わった後の女性の再雇用を実践すべきだと私は考えております。また、社会進出を説くばかりでなく、結婚や、子供を生み、育てることの意義と喜びを若い世代に説いていくべきだと思います。しかし現状は、結婚は損、出産は、育児はもっと損と学校でも教えられ、公的機関からのメッセージもそんなものばかりであります。これでは子供が増えるわけはないのであります。
 次に、公的年金の賦課方式について言えば、子供を持たずにいる方が経済合理的にはプラスになるという致命的な欠陥があることが指摘されております。つまり、保険料さえ払い続けていれば、子供を育てるコストを負担しなくても年金は受給できるからであります。そのため、自分では子育ての負担をせず、他人が産み育てた子供が支払う保険料で年金給付を受ける、ただ乗り、フリーライダーの存在を許してしまっているという指摘があります。
 例えば、DINKS世帯と子供二人を育てている世帯との間の生涯所得には二億円以上の差があるということが指摘されております。年金の受給額もDINKS世帯の方が多く、世帯間格差が厳然としてあると指摘されております。ある学者は、この賦課方式の下で子供を生み、育てることは無償で実物拠出をしているようなものだと指摘しているほどであります。ドイツではこれは憲法違反の判断が下っております。
 子供を持つと経済的には損をするというのが現行の年金制度であり、これを改めない限り少子化は止まらないと考えられます。せめて子供を持つことが経済的にも損にならないような社会を築く必要があります。そのためには、フランスのように子育て期間を年金額に加算したり、大幅な児童手当の支給が必要となると考えられます。いずれにせよ、子育て世帯に手厚い社会を築く必要があると考えます。
 しかし、以上のような根本的な問題にこの法案は踏み込んでおりません。全体としては女性の社会進出を促す第二の男女共同参画社会基本法と化し、実質的には出生率の向上には寄与せず、逆に一層少子化を進展させるのではないかという懸念があります。抜本的な再検討を要望したいと思います。
 以上でございます。

○委員長(小川敏夫君) ありがとうございました。
 次に、潮谷参考人にお願いいたします。潮谷参考人。

○参考人(潮谷義子君) 皆様おはようございます。熊本県知事の潮谷義子でございます。本日は、このような重要な法案の審議の場にお招きをいただきましてありがとうございます。
 私は、平成十二年の四月から熊本県政をお預かりをしております。県政運営の基本理念にユニバーサルデザイン、つまり、障害、年齢あるいは性別等、人が持つそれぞれの違いを超えて、すべての人が暮らしやすくなるような社会の在り方、これをユニバーサルデザインという形で理念化をしております。
 知事就任前の三十七年間は社会福祉の道一筋に歩んでまいりました。特に、このうちの二十七年間でございますけれども、乳児、子供、お年寄り、障害児者など、様々な事情を抱える家庭、家族と接してまいりました。私自身も三人の子供の母親でもございます。
 本日は、こうした経験も踏まえて、少子化社会対策基本法案に基本的に賛成の立場から意見を申し上げさせていただきます。その理由を、地方における少子化の現状、地域における子育て支援、妊娠、出産にかかわる女性のケアという三つの観点から述べさせていただきます。
 まず一点目に、地方における少子化の現状の観点について申し上げます。
 一人の女性が生涯に産む子供の数、いわゆる合計特殊出生率を見てみますと、熊本県は全国で十番目の一・五〇でございます。全国平均の一・三二と比べてやや高い数値を示しておりますが、人口を維持するために必要な水準とされる二・〇八を大きく割り込んでおります。少子化の進展は、都市部だけではなく、本県のように過疎地を抱える地方部においても憂慮すべき状況と申し上げてよろしいかと思います。少子化は今後一層進むと予測されておりまして、そのことが我が国の地域社会の中に計り知れない影響を及ぼすことを私どもは明確に認識すべきであろうと考えております。
 その影響として、人口減少によって地域社会の維持が困難になる点、あるいは世代間扶養の仕組みであります社会保障制度の負担が増大すること、また、労働力の減少により経済活動が停滞する点、さらには地域において歴史や伝統文化が継承されにくくなることなどが挙げられます。しかし同時に、私はこれまで様々な形で子供をめぐる問題にかかわってきた立場から、何よりも社会性や協調性、命の掛け替えのなさがはぐくまれにくくなったということで、子供自身の健やかな心身の成長への影響、これが懸念される点を指摘したいと思います。
 例えば、子供たちは自分を愛してくれる存在の中で、家族愛、そして成長して仲間愛、異性愛、人類愛を学んでまいります。また、遊びやけんかを通しながら、ルールの大切さや、支え合い、励まし合い、自らを顧みる力を養います。しかし今、遊びやけんかのルールを知らない子供が増えていく中で、子供自身がこうしたことを身に付けることなく成長しており、社会性のはぐくみが子供世界の中で失われつつあります。少子化は、子供同士の切磋琢磨や地域での異年齢の集団との触れ合いの機会を減らし、子供たちの豊かな育ちという点からも影を色濃く落としつつあります。
 少子化を語るとき、ともすれば子供の人数の多寡に目を奪われがちですが、最も大切なことは子供自身の自己実現という視点だと思います。子供は養育者との愛着形成の中で成長し、発達します。その結果として社会的使命や役割を自覚し、それを身に付けながら大人になることで歴史を継承する存在になり得ます。自己実現が図らなければ、将来、歴史を継承する存在が育っていかないことにもなります。法案の前文にありますように、私たちは正に有史以来の未曾有の事態に直面していると思います。
 こうした中、国ではようやく新しい一歩を踏み出そうとしておられますが、その中に示された方向性は、子育てを社会全体で担っていこうという姿勢と力強い決意が感じられるものであり、地方行政を預かる立場としても大変心強く思っております。
 とりわけ、法案の基本理念の中で、「子どもの安全な生活が確保されるとともに、子どもがひとしく心身ともに健やかに育つことができるよう配慮しなければならない。」と、子供の視点を明確に記述してある点は大いに歓迎すべきであると思います。
 二点目として、地域における子育て支援の観点から申し上げます。
 都道府県においても、こうした国の動きに呼応しつつ、少子化に対処するための施策を総合的かつきめ細かな形で推進していかなければならないと考えております。国において、関係省庁が連携しながら本格的に子育て支援策に着手されたのは十年以上前と記憶しておりますが、連携の取組の成果はまだまだ見え難い状況と言えます。
 そういったことから、今回の基本法は個別法を有機的につなぐとともに、それぞれから漏れる部分を埋めるためにも大切な役割を果たすものと受け止めております。
 本県においては、子育てと介護支援にかかわる施策を再点検し、各分野の垣根を取り払って横につなぎ、県民ニーズを踏まえ、着実に実行するきめ細かな施策計画をプロジェクトとして進めております。
 本県における具体的な取組として、地域における子育て支援の資源を結び付けネットワークを作る子育て応援団推進事業、育児の孤立化による育児不安を解消するため、乳幼児を抱えた母親が集うつどいの広場事業、また県独自の取組としてNPO法人等が行う子育て支援サービスへの助成、こうしたものを行い、地域社会全体で子育てを担う仕組みづくりを進めております。
 さらに、第一陣として承認いただいた福祉コミュニティ特区の中で障害児の地域生活支援を行っているほか、障害児の夏休み・放課後デイサービス事業、養護学校への看護師派遣事業などを全県的に展開しており、障害児の家族を含めたすべての子育て家庭を対象として、実態に即した横断的なサポートを展開をしております。
 子育てについては、申し上げるまでもなく、第一義的な責任が親にあることは論をまちません。私どもは、しかし、国を始め社会全体の責務が同様にあることも忘れてはならないと思っております。八月の一日、私どもは熊本市において、女性三知事が集まり、お手元にありますようなプログラムの中で、「少子化の流れを変えるために」というテーマで今後の子育ての少子化社会を考えてまいります。地域における子育て機能の再生、それは本当に重要な責務であると考えております。
 三点目に、妊娠、出産にかかわる女性のケアの視点から申し上げます。
 私は、これまで男女平等参画社会の実現にはいつも人間としてのまなざしの必要性を感じておりました。最近、ドメスティック・バイオレンスの問題、さらには、望まない妊娠の問題があります。この背景には、婚姻関係にない男女の望まない妊娠、性に対する無知と人格としての男女、男性、女性としての感覚が欠落し妊娠させられている事例、あるいは産みたいという思いはあるものの未婚での出産を不道徳とする社会的な価値観の中で妊娠する場合、さらには、育児、子育て、介護、これを女性が担うべき仕事ととらえる習慣等があり、就労の場も含めて、女性であるがゆえに人権の侵害がされてきている状況があります。
 そういった中で、私どもは行政として生涯を通じて人間として女性が社会に参画しやすい体制を整えていかなければならないという思いから、私どもは女性相談センターを五月一日に開設をいたしました。この中で、女性の心と妊娠にかかわる専門相談の中に、実は妊娠、出産に関する悩み、夫婦の場合の経済的、健康的な問題、あるいは未婚のケースの悩みや、暴力による妊娠、経済的困窮の問題など、複雑、多様な実態を見ております。五月の一日に開設したばかりですが、既に五十八件の妊娠にかかわる相談があります。こうしたニーズの大きさを私どもは改めて実感をしております。
 私どもは、この相談窓口の設置と併せて、子供を健やかに産み育てられる環境づくりを図るために、妊娠、出産から産後期における母親への連続したケアを試みる事業を展開したところでございます。母親の十人に一人が何らかの育児不安を抱えていると言われる中、産後の体調不良や育児不安で家事や育児が困難な家庭に、産後一年間、看護師や保育士等々を派遣し、子育てあんしんヘルパー事業を創設いたしました。また、母親の心のケア事業にも取組をしております。さらに、妊産婦健康診査、これについても今、本当に胎児を守っていくという観点から、私どもはどのような形の中でそれがあるべき姿であるかということも模索をしております。法案の中に、母子保健医療体制の充実が明記された点は評価すべきであると考えております。
 子育て支援は、妊娠、出産という子供が生まれる前の時点から始まります。もちろん産む産まないは個人の選択であり、行政や他の者が介入すべきではありません。しかし、少子化の様態は深刻になっているということは明白であり、未来社会の担い手そのものが非常に憂慮される状況にあることはもちろん私たちの欠いてはならない視点であると思います。このたびの少子化社会対策基本法案は、熊本という地方都市だけではなくて、国全体の中からかかわりを持っていこうという力強い姿勢というふうに私は受け止めております。
 以上、三つの観点から意見を申し上げました。
 子供は未来社会からの預かりものです。また、すべての子供がかけがえのない存在です。障害児はもちろん、婚姻外子、施設を利用せざるを得ない子供たち、あるいは胎児を含めてどんな子供たちであろうともひとしく命の価値、尊厳は変わりなく、かけがえのない命であるという観点からとらえていく認識を今後とも持ち続けていくことが何よりも大切であり、この基本法の成立をきっかけにして社会、経済、教育、文化、その他あらゆる分野において少子化対策が総合的に進められることにより、前文に掲げられた、命を尊び、豊かで安心して暮らすことのできる社会の実現に一歩近づくことができると私は大きな期待を寄せているところでございます。
 以上です。

○委員長(小川敏夫君) ありがとうございました。
 次に、吉岡参考人にお願いいたします。吉岡参考人。

○参考人(吉岡睦子君) 私は、ただいま御紹介いただきました日本弁護士連合会の両性の平等に関する委員会の吉岡と申します。本日はよろしくお願いいたします。
 当委員会は、日弁連の会長の諮問機関でありまして、一九七六年に女性の権利に関する委員会として発足し、九三年に現在の名称に変更しまして、調査研究活動や会長への意見具申を行っている委員会です。日弁連は今回の少子化社会対策基本法案について、二年前に意見書を公表し、本年五月に会長声明を出しております。皆様のお手元にお配りしてあるかと思いますので、どうぞ御参照ください。
 私は、基本法案に対し、慎重審議の上、修正等を求める立場から意見を述べさせていただきます。
 現在の社会状況から見て、出産、子育てに対する公的支援が必要であるということを否定するものではありません。しかし、第一に、この問題について、基本法を作る場合に基本理念としてどのような点が重要であるかという観点、第二に、少子化の原因が何であり、それに対してどのような対策を取ることが有効かという観点から見た場合、この法案は重大な問題点を含むものと考えます。
 まず第一に、目的、基本理念に女性の妊娠、出産に関する自己決定権の保障及び男女を問わず個人のライフスタイルの選択を尊重することが明記されるべき点です。女性が子供を産むか否か、いつ何人産むかを決めるのは、出産、子育てが個人の生き方、尊厳に深くかかわるものであるがゆえに憲法十三条で保障される女性の基本的権利です。
 このような出産、子育てに対する女性の自己決定権は、九四年の国際人口開発会議における行動計画、九五年の第四回世界女性会議で採択された北京行動綱領においても、その他において繰り返し明記されております。また、男女を問わず結婚、出産、子育て等に関する個人のライフスタイルの選択の自由も同じく、幸福追求権、プライバシーの権利の一種として尊重される必要があります。
 男女共同参画社会基本法四条においても「社会における制度又は慣行が男女の社会における活動の選択に対して及ぼす影響をできる限り中立なものとするように配慮されなければならない。」とされ、国の制度は個人の多様な生き方を妨げてはならず、中立であるべきことを規定しております。
 したがって、国が出産、子育て支援に関する施策を講じる場合、このような女性の出産、子育てに対する自己決定権の保障、個人のライフスタイルの多様性を損ねないということが基本理念として大前提とされなければなりません。特に少子化対策は、常に個人の私生活への干渉になりかねない側面をはらむがゆえに、この点は幾ら強調しても強調し過ぎることはありません。
 私は、今回、こちらの調査室からいただきました人口問題審議会報告書、少子化への対応を考える有識者会議提言、閣僚会議による少子化対策推進基本方針、少子化への対応を推進する国民会議の提言、少子化を考える懇談会中間取りまとめ等を改めて拝読させていただきましたが、いずれの報告書においても、個人の自己決定が保障されるべきこと、あるいは多様な家庭形態や生き方に配慮すべきことが繰り返し繰り返し強調され、注意が喚起されております。
 ところが、本法案の前文、基本理念を見ますと、少子化につき、「有史以来の未曾有の事態」との危機意識の下、国民を鼓舞し、国民の意識の変革を強く求めるものとなっており、女性の自己決定権への視点が欠落しています。国の審議会等で積み重ねられてきた今までの議論が反映されていないという点を非常に残念に思います。
 もっとも、衆議院において、前文に、「もとより、結婚や出産は個人の決定に基づくものではあるが、」との文言を付加する修正がなされました。しかし、前文全体の趣旨は、少子化の進展に歯止めを掛けるために国民の意識変革を求めるものですから、かえって修正を加えることで、結婚や出産が本来個人の決定に基づくものではあっても、少子化に歯止めを掛けるためには基本的権利さえもが制約を受け得るという趣旨にも読めるのでありまして、この文言を挿入することにより個人の自己決定権を明記したものとは到底言うことはできません。
 目的、基本理念は国の施策の骨格となる基本法として最も重要な部分です。したがって、少子化対策が自己決定、個人の選択の自由への制約を含むものではないかとの誤解を与えないよう、前文の文言の修正を図るとともに、基本理念にも自己決定権の保障が明記されるべきと考えます。
 第二点目として、法案は基本理念で父母等の子育てについての第一義的責任を明記するとともに、国民の責務として、家庭や子育てに夢を持つことができる社会の実現に資するよう努めることを定めておりますが、このように一律に国民の責務として明記すべきではありません。
 法案は、全体として見た場合、子育てのための環境整備を挙げつつも、親の第一義的責任、国民の子育てに夢を持てる社会実現に向けての努力義務や、教育及び啓発における家庭責任の強調など、国民に子育ての責任があることを強調し、意識の変革を求めるものとなっております。国や事業主の責務が抽象的であるのに対し、親としての責務はむしろ強調されています。
 しかしながら、本来、出産、子育て支援は、個人の選択を尊重しつつ、産む選択をした人の支援をするとともに、産めないあるいは産まない選択をした人、シングルの人などの多様な選択の自由が保障されなければなりません。このような一律の努力義務は、結果的に、国民に対し子供のいる家庭像のみを押し付けることになりかねず、国が私的領域、プライバシーに踏み込むものであって、憲法十九条、十三条で保障する思想、信条の自由や幸福追求権を侵害するおそれがあります。この点は人口問題審議会報告書や平成十年厚生白書においても繰り返し明記されているところです。したがって、このような規定は削除されるべきであると考えます。
 第三点目として、では、何が少子化対策として有効かという観点に立つと、国の環境整備の責任を明記すべきであると考えます。
 各調査結果によれば、少子化の原因としては、育児の負担感、これは経済的、精神的負担を含みます。女性の社会進出が進んでいるにもかかわらず、仕事と家庭の両立のための環境整備が不十分であることが大きいということが明らかになっています。要は、女性の社会進出や個人の価値観の変化に社会制度や男性の意識が追い付いていないのです。人口問題審議会報告書では、現実の出生児数が理想の子供の数を下回っていることが報告されており、たとえ子供を産もうと思っても、理想とする子供の数を持てないというのが日本の現状です。
 したがって、出産・育児支援策としては、一、保育サービスの充実等の両立支援のための環境整備、二、労働時間の短縮などの両立を容易にする雇用慣行の改善、三、固定的性別役割分業の見直し等が必要であります。また、日弁連が従来より提言している選択的夫婦別姓の導入により結婚の選択肢を増やすこと、戸籍や相続分等における婚外子差別の撤廃などの法制度の見直しも重要です。
 つまり、女性の社会進出や個人の選択の多様性を前提にしつつ、男女共同参画社会の実現により、男女が仕事と子育ての両立をできるように国が環境整備を図ることが最も有効な対策と言えます。このような観点から、男女共同参画社会基本法は、男女共同参画社会の実現が少子高齢化への対応のかぎであり、二十一世紀の最重要課題と位置付けていると理解しております。現に、女性の就業率が高く、自己決定権が尊重され、子育てへの男性の参画が進んでいるOECDの諸国では出生率も高くなっております。
 ところが、本法案は、少子化の原因分析が不十分かつ恣意的で、的を得たものとなっていない上、国民の責務のみを強調し、国や事業主の責務は抽象的なものととどまっています。
 今申し上げましたような諸制度、慣行の見直しを図ることなく国民への努力義務を課したとしても、当事者にとっては育児への負担感がより一層増すのみで、かえって逆効果であるとさえ言えます。特に、現在の社会状況を見ますと、若年層の失業率の増大、過労死に象徴される長時間労働、育児休暇を取りづらい職場環境、保育所の不足、性別役割分業の解消が進んでいないことなど、ますます仕事と子育ての両立が困難になっており、この中で国民の責務ばかり強調しても現実とのギャップに負担感が増すだけです。よって、環境整備こそが喫緊の課題であると考えます。
 第四点目として、教育、啓蒙の中身として生命の尊厳や家庭の役割を挙げていますが、これらの文言は削除すべきです。
 生命の尊厳は、母体保護法改正論議の際、中絶の経済条項を削除する理由として主張されたものです。したがって、女性の自己決定権を侵害することにつながるおそれがあるので削除すべきであると考えます。また、国の環境整備の責任を明確化しないで家庭の責任のみを強調することは一面的であり、前述のとおりむしろ逆効果であります。教育、啓蒙として挙げるのであれば、性別役割分業の解消、多様な生き方の尊重、男女共同参画社会の形成の視点こそ入れるべきであります。
 第五点目として、本法案は基本法であるにもかかわらず、幼稚園や不妊治療についての規定が突出しており、均衡を失しているという点が挙げられます。
 少子化の主たる要因は仕事と育児の両立困難性にありますから、保育所の増加、保育サービスの充実こそが課題であります。また、出産や小児医療体制には様々な問題がある中で不妊治療のみを強調するということは均衡を失しております。様々な議論のある不妊治療のみを強調することは、産めない女性たちを心理的に追い詰めることにつながりかねません。特に、最近の発言等を見ておりますと、産む、産まないで女性を差別するということに対し、なおさら危惧の念を強くしております。
 以上の理由により、慎重審議の上、更なる修正をなされるよう強く求める次第です。
 以上です。

○委員長(小川敏夫君) ありがとうございました。
 次に、泉参考人にお願いいたします。泉参考人。

○参考人(泉ミツ子君) おはようございます。泉でございます。
 大変準備が不足いたしまして、レジュメもそれから資料もお手元にお配りできないままに発言させていただくことになりましたが、大変申し訳なく存じます。お許しいただきたいと思います。
 私、フォーラム・「女性と労働21」という所属の団体の名前で本日出席をしておりますけれども、お手元にお配りしておりますように、国際婦人年連絡会の加盟団体という形で、国際婦人年連絡会でこの法案に対する意見をまとめて皆様方のお手元にも届けてあると思いますが、基本的な考え方の要請文を、意見書をお送りしております。これも三点にわたりまして、産めよ増やせよ政策に対することが重点的な問題であるならばこの基本法案については反対をするとか、あるいは、二つ目は、女性も男性も育児を始めとする家族的生活と仕事その他の活動を両立していける政策を基本に打ち立てていただきたい、それから三つ目は、結婚や出産は当事者の選択にゆだね、自己決定の原則を尊重すべきである、こういう三点で、簡単な問題で意見を提出しておりましたけれども、衆議院の方で論議の末に自己決定の問題については若干修正がなされていると思いますので、この問題については一応横に置きまして、というのでは失礼ですけれども、私どもが今回の法案、とりわけ私どもの、働く女性の労働の在り方あるいはそれにかかわる社会的な保障制度といいますか、そういった問題について重点的に取り組んでおりますので、そちらの方を重点的に意見を申し上げてみたいと思います。
 この基本法案をバックにしてといいますか、厚労省の方では次世代育成支援対策推進法案というのが策定をされまして、これが少子化対策の一つの大きな柱として今後進展されていく、そういうふうに聞いておりますので、これも、この問題を中心に考えながら、私どもが今、働く女性の問題、それと働く女性が直面しております育児の問題、あるいは家族的責任をどのように果たしながら仕事と、職業生活と両立させていくか、そういった問題についての視点から幾つかの問題を申し上げてみたいと思います。
 私ども、女性が働き続ける、働いて生きる、そういう基本的な考え方を持ちまして、経済的に自立をする、そのためにやはり働くということが重要な基本的な柱である、そういうふうに考えて取り組んでまいりましたけれども、やはり女性である以上、産む性を持つ以上、子供が生まれる、育児と職業との両立というものは一番の中心的な課題だというふうに考えて両立政策というものを拡充していきたいという形で取り組んでまいりました。
 昨年、育児休業・介護休業法の改定がなされましたけれども、この問題の際もいろいろと御意見を申し上げましたし、議員の先生方にも大変御努力をいただきましたけれども、育児休業、介護休業という名前がそのままになっておりまして、私ども、この際、職業と家庭生活、家族的責任の両立を図るという立場からはいろいろな施策が今後出ていくと思いますけれども、この育児・介護休業法の拡充という形で、名称を職業と家族的責任の両立支援法と、そういう形に拡充をしていくという形に改めまして、いろいろ、この法案の中心は育児休業、保育所、それから短時間労働とか、幾つかの補足的な課題がありますけれども、これらのものを網羅して、もっともっと重点的に職業と家族的責任が両立するような制度に拡充をしていきたいというふうに考えております。一つが、第一点がこの問題です。
 特に、この中で一番育児休業の問題が中心的な課題として今後重点的に対処をしていくという取組がなされていくというふうに聞いておりますけれども、一番育児休業の方の問題は、前回の改定の際にも明らかにして、いろいろと意見を出され、討論されたようにも聞いておりますけれども、休業法の適用対象の女性労働者というのが一応限定をされておりまして、有期雇用の女性労働者は適用されない、ということは、大変現状に増えておりますパートだとか派遣だとかそういう人たちは有期雇用でありますから適用除外になる、最近そういった問題がありまして、有期雇用の労働者についても、継続して更新されて雇用される場合は適用するとか、いろんな是正策は取られておりますけれども、もっと根本的にこの適用対象の問題を考え直す、適用拡大を図るという形でお考え直しをいただくということが必要なのではないかというふうに思っております。
 それから、どうしても休業いたしますと収入が途絶えますので、大変な負担になります。特に、育児をするような若い層にはまだ賃金は安うございますし、一人の給与がない、収入がないということになりますと大変ですから、生活の保障という意味で給付をもっと充実をしていく。安心して子供を産み、そして育てる、あるいは育てる中で休業をしても生活に困らないというような社会的な保障の制度というものがやはり必要なのではないかというふうに思いますが、現状は雇用保険から育児休業の給付が出されておりますけれども、雇用保険そのものに入る資格というものが、要件というものが限定をされておりまして、パートあるいは派遣、そういった非雇用の女性労働者は一応この雇用保険には入れないというのが前提になっております。
 最近、雇用保険法も改正されまして、労働時間が二十時間以上あるいは三十時間未満というような形で幾つかの区分をいたしまして、雇用保険には適用して加入するようになりましたけれども、こういう場合の有期雇用との関係で、有期雇用は適用除外という規定がどういうふうに関連していくのだろうか、こういった問題は大変関心を持って見ております。
 最近、労働基準法も変わりまして、改正されまして、有期雇用が、これは特定の専門職ですけれども、三年であったものが五年に延長された。しかし、その場合に、契約労働でありますから、例えば、中間で退職を、契約を解除して退職をしたいといった場合に損害賠償を請求されるのではないかとか、いろんな論議をいたしましたけれども、それは一応なくなりましたが、こういう有期雇用の方が契約をして働いている場合に育児休業を取りたいという状況になったときに、果たしてそういうものが認められるのかどうなのか、そういった問題もいろいろ考えていきますと、大変難しい問題になるのではないか、あるいはまた、有期雇用でもパートだとか派遣労働の短期間の有期雇用の人たちにはもちろん適用されないわけでありますから、こういった人たちには未来永劫この育児休業という問題は職業の継続に対する保障の制度にはなり得ないのではないかと、そういうふうに思っております。
 特にこの問題を私が大きな問題だと考えておりますのは、現在の女性労働の在り方というものを数量的に見ますと、皆さん、先生方の方が中心的にお考えいただいていると思いますが、女性労働の今の働き方、雇用の実態から申し上げますと、正規労働者よりも非正規の女性労働の方が重点的になってきておりまして、雇用保険に入る、あるいは年金制度に入るというような取扱いを受ける、適用対象になる労働者の範囲からはとにかく除外をされたパート、派遣、あるいは雇用労働者でない非雇用の、下請だとかあるいは請負だとかいろいろありますけれども、それから自営業だとか家内労働だとか、いろんな形の分野に女性の働く場が広がっていっています。こういう人たちに対する社会的な支援の制度というものがなかなかまだ追い付いていかない。
 こういった問題も含めてこの支援策というものを、きめ細かな支援策というものを制定をしていかないと、やはり女性は自分の生活を守るということが大事でありますから、もちろん子供を産む場合には、配偶者もいるわけではありますけれども、生活をどのように、収入をどのように保つか、そういった問題での悩みがありまして、なかなか即、結婚したからすぐ子供を産もうとか作ろうとか、二人を三人にしようとか、そういった問題までつながっていかないという財政的な問題が大変あると思います。
 ちょっと問題点がうまくまとまらなくて大変失礼な意見になって申し訳ないと思いますが、こういった育児休業の問題につきましては、そういういろんな非雇用の労働者も含めた育児に対する休業保障、そういった問題もお考えをいただくような場というものを是非取り組んでいただけないものだろうかと思います。
 特に、私どものこの連絡会の中でたくさんの、四十六団体がいるわけですけれども、ここには専門職の、女性の専門職団体等もありますし、自営業の方々の団体も入っておりまして、特に最近言われておりますのは、自営業の方々が、自営業ですから雇用の問題には直接当てはまらないので大変問題があるんですけれども、こういう方々が、休業といっても、自分で休んでしまえばそれで済む話なんですけれども、例えば妊娠をする、出産をする、育児をする、そういった際に、休業をしてしまうと収入が途絶えてしまう、そういった際に何らかの保障というものはないものでしょうかと。働いている人は、雇用されて働いている方は恵まれていますねというような形でいろいろ言われます。こういった問題についての何らかの方法というものをお考えいただくという形での政策の充実というものをお願いできないだろうかというふうに私は思っております。
 それから、ついでに申し上げますが、この法案の中でいろんな具体的な政策が、施策が出されておりますけれども、育児休業、保育所、そういった問題、あるいは妊娠、出産、育児についての相談体制とか、そういう支援策はたくさん出ておりますが、一つどうしてかなというふうに思って読みましたのは、いわゆる出産にかかわる保障の問題です。出産そのものにかかわる保障の問題についてはちょっと言及されていないのではないかというふうに思います。
 自営業の方々の話に続きますけれども、出産の場合、通常、健康保険に入っておりますと、出産手当金というのが標準報酬の六〇%出るというのがあります。それから、出産育児一時金ですか、これが、三十万円がそれで出ると。これは全部出るわけですけれども、この出産手当金というのが健康保険に入っていれば出るんだけれども、いわゆる自営業の方々は国民健康保険ではこういうシステムはないわけですね。
 ですから、自営業であるがために、自分が経営をしているわけですから自分の責任で処理すべきかも分かりませんけれども、こういった保障制度というものが何らか考えられていいのではないかと。特に、自営業が増え、あるいはパートだとか、あるいは派遣だとか正規の雇用以外の人たちが、今の社会保障制度の中で、あるいは労働法制度の中で適用を受けられない制度のはざまにいるといいますか、そういう人たちの問題について、やはりこの少子化対策を全国民に対する制度として拡充していくと、そういう方針であるならば、是非そちらの方にもお目配りをいただきたいというふうに思うわけでございます。
 それから、もう一つの問題として申し上げたいのは、今、政府が進めております、日本が進めております構造改革、そして規制緩和という形の中で保育所の問題がありますが、保育所が民間への、民間活用という一つの大きな流れの中で、今までの認可保育所に代わってというよりも、それを拡充する意味で認証保育所というのが東京都では図られて、進められてまいりました。
 特に、これがもう実際運用されているわけでありますけれども、A型が駅型の保育所、それからBが個人型という形で、いろんな具体的に施策が進みまして大変活用されているようでありますけれども、これの実際問題として出されておりますのは、とにかく料金が、利用料金が高いという形なんです。
 保育所というのは営業しても利益を上げるようなシステムの問題ではありませんので、多分に条件をいろいろ整理をして、この保育者の雇用の問題だとかいろいろありますけれども、そういう形がありますが、月二百二十時間内で八万円だとか、あるいは三歳以上の子供がいれば七万七千円だとかありますが、二百二十時間以上になりますと十二万円だとかいうふうに極端にぱっと料金が上がってしまうと。そういった問題についても、やはり子供を育てるという意味で育児、保育の問題についてもう少し支援をいただくような形というものはできないだろうかというふうに思っているわけでございます。
 なかなかまとまらない問題になりましたけれども、私どもが一番注意をして、関心を持っておりますのは、いろんな施策を作っても、先ほども申し上げましたように、今の育児休業法、あるいは保育所、あるいはいろんな制度についても、今まで、育児休業法についても、制定をしてきた最初の始まりというものがやはり正規で働いている労働者のための休業法から始まっておりますので、これが今のように非正規、パートであり、あるいは派遣労働であるという形で非正規の労働者が特に婦人の場合増えておりますので、そういう人たちに対する制度、カバーできる制度というふうに改定をしていかないと、やはり喜んで誇りを持って子供を産み、そして育てていくというような問題にはなかなか財政的な問題の面からつながっていかないのではないかというふうに大変危惧をしているところでございます。
 いろいろと、男女共同参画の問題についても、女性が働き続けるという問題についてもいろいろ御意見もあるように聞いておりますけれども、私どもは、やはり男女がお互いに協力をして社会を作り、家庭を作り、性別のない社会制度の中で生きていく。お互いが助け合い、尊敬し合って社会を作っていくという性別の分業論が何かあるとぶり返して出てまいりますけれども、そういった形ではなくて、この育児の問題一つだけ取っても、男女がともに多様な働き方の中でも協力し合って職業生活と家族的責任の両立ができていくような支援法を作っていただきたいというふうに思っております。
 この基本法そのものについての意見としてはちょっとそぐわないかも分かりませんが、具体的な問題としてはそのように考えております。
 ちょっと時間が少なくなりましたけれども、最後に一つ申し上げたいと思いますのは、こういう、この基本法の中にも記されておりますし、ありますが、企業の責務、国民の責務、いろいろありますが、国の責務ありますが、特に私どもが注意をいたしますのは企業の責務の問題です。
 特に、育児休業の問題あるいは出産の問題などに現状で私どもが直面しますのは、育児休業したい、あるいは出産休暇を取りたい、そういう申出をしますと、それなら今の自分の会社ではそういうのはなかなか適用できないからお辞めになったらとか、これはもう均等法や労基法そのもの、労働法そのものの違反行為だと思いますが、企業のいわゆる零細あるいは小企業の方々の、経営者の方々の御意向としては、なかなかそこまで経済的な理由からいっていないというふうな状況で大変苦しんでいる問題があるということがあります。
 大変時間がない中にまとまりのない意見で申し訳ございませんでしたが、そういうような形で、制度的にもう少し充実をするという形の問題にお取り上げいただきたいということで意見を述べさせていただきました。
 失礼いたしました。

○委員長(小川敏夫君) ありがとうございました。
 以上で参考人からの意見の聴取は終わりました。
 これより参考人に対する質疑を行います。
 なお、質疑時間が限られておりますので、簡潔に御答弁いただきますようお願い申し上げます。
 それでは、質疑のある方は順次御発言願います。

○亀井郁夫君 今日は、四人の参考人の皆さん方、お忙しい中ありがとうございました。そして、非常に貴重な御意見を拝聴いたしまして、ありがとうございました。
 ちょっとお尋ねしたいんですけれども、この少子化社会対策基本法案というのが衆議院から送ってまいりまして、今おっしゃったように、少子化問題というのはだれもが考えている大きな問題でありますだけに、この基本法に対する期待というのは大きいわけでありまして、私も早速読ませてもらったわけでありますけれども、どうも何か引っ掛かるような感じがするわけであります、率直に申しましてね。
 これについては、結局、超党派でまとめた案ではありますけれども、それぞれ違った世界観の下で妥協の産物としてまとめられてしまったというふうな感じになるなと思いまして、今、八木先生のお話で、呉越同舟というお話を聞いて、なるほどそうだなという感じがして目からうろこが落ちるような気がしたわけでもございまして、この問題は大きな問題、大事な問題でございますけれども、十分慎重に考えていかないと大きな問題になるなという思いがしながらお聞きしたわけであります。
 ところで、八木先生にお尋ねしたいんですけれども、「生み、育てる」といって、点をちょっと付けただけで、そういう意味で産む者と育てる者が違ってしまっちゃって、そして後の議論にも絡みますけれども、子供は社会のものだと。確かに、社会の宝だと我々言いますけれども、実際に、そうは言っても、子供はやっぱり親が「生み育てる」ものではないかと思うわけでありますけれども、それを産む者と育てる者に分けてしまって、そうしてまた、育てる方は特に今度は社会の子としてそれを社会が育てていくということになりますと、これはちょっと先生にお尋ねしたいんですが、スウェーデンの例でお聞きしたのでは、スウェーデンの場合には、だから父親の分からない子供が半分近くいるという話で、その出生率を上げていったんだけれども、しかし、現在はどんどん下がってきているということもちょっとお聞きしたんですけれども。
 そういう意味で、本当にそういうことで、社会の子だという形にして自分の父親の分からないような社会、自分の父親が社会なんだというふうな形になっても本当にいいものだろうかという気がするわけでございまして、そういう意味では、この「生み育てる」を分けるということに絡んで一つお尋ねしたいと思うわけですし、それから、潮谷先生にはもちろん後ほどこれに絡んでお尋ねしますけれども。
 そういうことで、二つ目の問題は、結婚や出産が個人の決定に基づくものだということで、これが自己決定主義が入っておるわけでありまして、これについてはリプロダクティブヘルス・ライツということから出てきているんですけれども、しかし、このことが決められた国際会議のときには、発展途上国等のいろんな苦しい経済状況の中で子供がどんどん生まれて母体が傷付くということを防ぐためにこういうことが宣言されたということも聞いておるわけでございまして、そういう意味で、単純に自己決定だということのようなことについてはやはり私は問題ではないかと。
 結婚も出産も相手がおることでございますから、相手を無視して女性の方が、自分が結婚するんだ、自分が産むんだと、勝手なんだということには非常に問題があるように私は思うわけで、現実にこの言葉を使って、日本の場合に、中学生の性教育にこれが使われておって、女性が決めればいいんだから、あなた決めなさいよという形でやられている。実際にそういう指導書が、性教育の指導書がたくさん作られて、百八十万部ですか作られて全国にばらまかれている例もあるわけでございまして、そういう意味では非常に大きな問題で、少子化以上に大きな問題があると私は思うんですけれども、このことについてと先ほどの点、先生にちょっとお尋ねしたいと思います。ヨーロッパの例を、ひとつ済みません。

○参考人(八木秀次君) まず第一の御質問でありますけれども、「生み、育てる者」という修正がされた理由については、これは私の理解を先ほど述べた次第でありまして、衆議院でいかなる理由によってこういう修正がされたのかは私は知りません。ただ、この点が置かれることによってかなりニュアンスが異なるということは確かだろうと思います。
 確かに、子供は社会の宝と申します。この言葉自体は極めて響きのいいことでありますし、私たちも、たとえ他人の子であれ、やはり同じ日本国民として、また日本の次代を担う存在として、他人の子供であれ、温かいまなざしを向けていかなければならないと思います。また、核家族が取り残され、地域共同体が崩れる中で核家族が取り残されている中では様々な子育て支援が必要なことも、私はそれは大変結構なことだと思います。
 しかし、やはりこの基本法にあるように、「父母その他の保護者が子育てについての第一義的責任を有する」という、この点についてはしっかりと確認をしておく必要があると思うんです。それといわゆる育児の社会化は全く別のものだと。我々が一般に理解する、子供は社会の宝だというその考え方と育児の社会化というのは異なる概念なんだということを認識する必要があると思います。
 育児の社会化というふうに言いますと、父母その他の保護者が子育てについての第一義的責任を負わなくていいという、そういうニュアンスが出てくるわけです。先ほど先生から御指摘があるように、例えば北欧諸国では、この点が、親が自分の子供に対する責任を放棄するという形でこれが使われているやに理解されている嫌いがあるわけです。そこからやはり少年犯罪や少年非行などの問題が多発しているという分析は多くの方からなされているところであります。
 子供は社会の宝だという、そういう美しい言葉に惑わされることなく、その実態を見る方が私としてはよろしいのではないかと思います。
 それから、第二の御質問ですが、自己決定権ということでありますけれども、これは先ほども述べましたように、法的な概念としては熟しておりません。あくまで学説の中で主張されているものにすぎないわけです。裁判の、裁判所の判決の中でこれが使われたケースはまだ私が確認するところではございません。したがって、このようなニュアンスのある言葉を入れることについてはやはりいかがかと思います。
 それに、自己決定権という場合には、行き過ぎた個人主義というものを背景としておりますので、やはり結婚も出産も相手があるものでありますし、この行き過ぎた個人主義の中から、特に出産、中絶といったところを、これも女性の個人としての権利だと、こう理解することから、例えば中絶の自由やあるいは先ほどから御指摘のように行き過ぎた性教育がなされるという、そういう事態も出てきておると思います。
 自己決定権という理解の下でこの言葉が独り歩きをすることを私は懸念しているわけでありまして、それゆえに、この法案がそういった方向への社会改造の目的を一部有しているということを懸念しているわけであります。
 以上でございます。

○亀井郁夫君 ありがとうございました。
 この問題は、刑法やら母体保護法にもいろいろ関係する大事なことになるわけでございますので、慎重に審議しなきゃいけないと思いますが、ありがとうございました。
 次に、潮谷参考人にお聞きしたいんですが、お話の中で、いろいろと御苦労なさっている。それで、子供を育てるについて、子育て支援策と言われたり、子育て策と言われたり、支援が入ったり落ちたりしているんですよね。それで、大事なことは、やはり子供の、子育てを支援するのか、社会として育てて支援していくのか、社会として子育てするのかという、今の話にも絡む大きな問題だと思うんですね。
 支援という言葉が絡んで、そういう意味ではだれを支援するかということが大きな問題だと思うんですが、そういう意味では、知事はどういう哲学でその辺をやっておられるのかということをお尋ねいたしたいと思いますけれども。

○参考人(潮谷義子君) 子育て支援策というのが本来的な使い方でございまして、恐らく発言の中で子育て支援の支援が落ちたところがあったかと思いますけれども、その点は訂正をさせていただきたいと思います。
 子育て支援策というのは、本来的には私は、先ほど申し上げましたように、子育ては第一義的には親がということ、これは論をまたないところだと思います。
 しかし一方、子育てを、生み、育てるということともかかわりがありますが、必ずしも産んだ者が育てるということにつながらない場合があります。出産直後に親が亡くなってしまった事例、あるいは養子の子供たちの事例、そういうことを考えてまいりますと、産むということと育てるという行為の中には、これは時として性質的に違う要素が含まれてまいります。そういたしましたときに、私どもは、その生まれた子供に対して、産んだ親自体が本当に育てることが困難であると、そういう事態がありましたときには、様々な形の中で社会的なえにしを大事にしながら子育てをしていくということが大事だと思います。
 また、子供が成長、発達してまいりますときに、モデルがないと子供たちは育っていくことができません。その中で、私ども、子供たちに対しての育ちというのを、親が本当に駄目だった場合、例えば今日では、先ほど申し上げました事例のほかにも虐待の親等々の問題があります。そんな中で、私たちが育てるということを子育て支援策の中でやってまいりましたときに、子供自身はそこの中で健やかに育てられるという経験を通し、自分自身が家庭を持ち、親になったときに、自分が得たことを一つのモデルにしながら、より良い形での家族生活、家庭生活を維持していくことにもつながろうかと思いますので、私は、血縁による子育てだけではなくて、社会的なえにしによる子育て策というのが大変大事な時代に掛かってきていると。
 そういった中で、この少子化社会対策基本法案の中にはその観点も盛られているということで評価をしております。
 以上です。

○亀井郁夫君 済みません。吉岡さんにもいろいろとお聞きしたいと思ったんですが、もう時間がございませんから、やめますけれども。
 本当に、昨日の新聞等でもいろいろと厳しい、本当に情けない報道がなされておって、子供が、十二歳の子供が大変な罪を犯しているということですね。こういう問題は、そういう意味では少子化の問題と同時に、我々が、親であり社会の我々がしっかり考えていかなきゃいけない大きな問題だと思うんですね。
 そういう意味では、この問題、少子化基本法についても十分検討していきたいと思いますので、御指導のほどお願いしたいと思います。

○松井孝治君 民主党の松井孝治でございます。
 本日は、各先生方、本当に貴重な御意見をありがとうございました。
 時間がありませんので、まず、八木先生にお伺いをしたいと思います。
 八木先生の御陳述の中で、年金の問題あるいは子供を持つことについての経済コストの問題をお触れになられました。非常に重要な論点だと思います。私自身も、自ら子供を持つ父親として、あるいは自分の妻と話をする中で、そういう部分というのは非常にあるなということをいつも議論をしております。その中で、児童手当の問題について、八木先生、触れられました。
 私は、諸外国で一部採用されていますが、子供がいる、いないという区別はもちろんあるんですが、子供の数の問題がございます。やっぱり、一人育てるのよりも二人あるいは三人育てるというのは非常に経済的にも大変であります。そういった面において、例えば児童手当やあるいは控除の問題や、あるいはおっしゃったような年金制度の問題を含めて、子供の数によって若干、例えば手当の金額を、一人当たりの金額を更に一人目よりも二人目の方を増やすとか、あるいは三人目になったら更に増やすとか、そういった制度を導入している国があると思います。
 これについては、ほかの参考人の御意見はまた違うかもしれません。産めよ増やせよというような政策になってはいけないという御批判もあろうかと思いますが、八木先生は、そういう児童手当あるいは年金制度などについての子供の数についての傾斜配分的な政策についてどういうお考えか、まずお伺いしたいと思います。

○参考人(八木秀次君) 私も三人の子供を今育てておりまして、やはり子供を育てるその経済的なコストについては決して人ごとではなく、切実な思いで今日も意見陳述をさせていただきました。したがって、やはりその傾斜配分については、これは一刻も早く導入すべきだと私は考えております。やはり、一人育てるよりは三人育てる方がその経済的なコストは掛かるわけです。
 一方、DINKSの御夫婦であるだとか、あるいは不幸にして不妊症でお子さんができなかった御家庭だとか、そういったところに比べると、先ほどもその試算を出しましたけれども、少なくとも生涯で二億円の所得の格差が出てくるということですね。これがまた、内閣府辺りで強くそういった数だけが押し出されているものですから、これを見て多くの人たちは、やはり子供を持つと経済的に損なんだなという認識を持つと思うんです。
 ですから、そういう、もし二億円損するということがこれが事実であったとしても、やはりそれをカバーしていくような施策を是非政治の方で取り組んでいただきたいというのが私の願いであります。

○松井孝治君 ありがとうございます。
 潮谷参考人にも同じ質問、もう結論だけもし伺えれば、傾斜的にそういう配分をしていくということについて潮谷参考人はどのように思われるか。

○参考人(潮谷義子君) いろいろな仕組み上の問題等々も出てこようかと思いますけれども、しかし傾斜配分というのは今後考えていくに値する領域だというふうに思います。

○松井孝治君 ありがとうございます。
 先ほど来、亀井委員からもお話がありましたけれども、やはり子育てにおける家族の役割というのは私は基本だと思います。潮谷参考人もおっしゃったように、もちろん血縁のみで子育てが行えるわけではありません。私自身の小さいころの経験でも、私は家が商売をやっておりましたから両親とも働いておりました。その中で、特に地域社会、同級生の御両親とか近所の方々というのが、本当にいろんなところで遊び場を提供したり、あるいはそこで怒られたりしながら育てられたなという思いを持っております。
 その意味で、これはまず八木先生にお伺いをしたいんですけれども、八木先生がおっしゃった育児の社会化について、安易な育児の社会化は慎むべきではないかという御議論は先ほどの亀井委員からの質疑で趣旨は私も明らかになったと思っておるんですが、やはりある部分、余り家庭あるいは近親者、血縁のみで教育がなされるということも、これは最近のいろんな社会的な風潮、必ずしも好ましくない風潮の要因になっている部分もあると思うんですけれども、そこについて、育児の社会化について必ずしもネガティブにとらえる必要もないのかなという気はするんですが、その辺りについて、八木先生、もう少し御説明いただけますでしょうか。

○参考人(八木秀次君) 先ほどの亀井議員からの御質問に対する答えの中でも申し上げたことでありますけれども、やはり私としては、家庭を基本とするという、これは確認しておきたいと思うんですけれども、ただ、御指摘のように、地域社会が壊れる中で核家族が取り残されているという現状があるわけです。やはり、それは社会としてその家族を支えていく、あるいは子育てをしている親やその子を支えていくと、そういう意味での育児の社会化、そういう意味で使われるのであれば、私もその育児の社会化ということに関しては肯定的にとらえております。

○松井孝治君 ありがとうございました。
 ちょっと観点が違うんですけれども、吉岡参考人にお伺いをしたいと思います。
 日弁連では、二〇〇一年に少子化社会対策基本法案に対する意見書というものを発表されていて、その中で、多様な生き方を認めない社会の在り方が少子化の一因となっているというような意見を述べておられます。具体的に、改正されるべき法制度とか社会的慣行というものは具体的にどのようなものがあるのか、日弁連の中でこの問題を特に議論をしてこられた吉岡参考人から御意見をいただきたいと思います。

○参考人(吉岡睦子君) 先ほども申し上げましたけれども、民法改正をしていただいて、現在、夫婦の氏が同氏強制制度になっておりますが、やはり別姓の選択をできないということで、婚姻届を出す、あるいは出産を控えるということをためらっておられるカップルが私の周りでもたくさんおられます。ですから、この選択的夫婦別姓制度を導入していただきたいという点。
 それから、同じ民法ですけれども、婚外子の差別、これがかなり少子化との関連でもネックになっているというふうに考えます。中絶の中身を見ましても、婚外子については中絶されるケースが非常に多いと。ですから、どんな環境で子供が生まれてもひとしく社会が受け入れて育てていけるような、そういう法制度、社会環境が必要だと思うんですが、そういう意味でも民法改正をしていただいて婚外子差別を撤廃すると。それから、戸籍法その他の残っている差別も撤廃していただきたいというのが非常に重要だと考えます。
 それから、現在、中立的でない税制、年金制度になっておりますので、どんな形で、女性が働き続ける場合、家庭に入ることを選択する場合、様々な選択肢があり得ると思うんですが、どんな選択をしても同じように平等に税制、年金制度の恩恵が受けられる、そういう改正をしていただきたいというふうに考えております。

○松井孝治君 ありがとうございます。
 婚外子差別の問題というのは私も、生まれてきた子供にとって、それが婚外子であろうとそうでなくても、これはもう生まれてきた子供は選べない状況ですから、それが差別をされているというのは私も不当なことではないかなと思っております。その意味では吉岡参考人の御意見に全く賛同するものでありますが、ただ一つ、吉岡参考人に伺いたいのは、婚外子差別を撤廃するということはいいんですけれども、それが少子化社会というものを変えていく、少子化というものを是正していくときに、その婚外子差別を撤廃するということは、婚外子を社会的に認知を高めて、批判的な方々から言わせれば、婚外子というものをもっともっと社会的に認知し推奨するような結果にならないか、それは本当に社会としていいことなのかどうかという議論もあろうかと思いますが、その点について吉岡参考人はどのようにお考えになられますでしょうか。

○参考人(吉岡睦子君) 推奨するわけでも反対するわけでもなくて、現実に婚外で生まれてくる状況というのは相当多数あります。ですから、それに対して私たちがどういうような対応をするかというのが問題になるわけで、いろんな生き方、それからライフスタイルについての選択肢を認める結果として、やはり子供に対してもひとしく、まして子供自身についてはどんな環境で生まれてくるかということについて責任がないわけですから、婚外子もそうですし、障害児の問題等もそうですけれども、ともかくどんな環境で生まれてきてもひとしく成長発達権を持っているんだという観点から法制度等を整備していただきたいと思います。ですから、奨励等という主観的な問題ではないというふうに考えております。

○松井孝治君 ありがとうございます。本当に、子供の立場からいって、おっしゃるとおりだと思います。
 この問題について八木参考人にも御意見を伺いたいんですけれども、この婚外子差別の撤廃について、今、吉岡参考人がおっしゃった御議論に対して八木参考人はどのような御意見をお持ちなのか、あるいはどのような御感想をお持ちなのか、お伺いしたいと思います。

○参考人(八木秀次君) 婚外子差別と申しましても、民法上は相続について嫡出子と非嫡出子の相続分が非嫡出子が二分の一になるという、これだけでして、その他については婚外子、非嫡出子の差別というものは法の中にはないかと思います。
 社会的にそういう差別があるのであれば、それは是正すべきだと思いますけれども、民法上のそういった措置は、これは婚姻制度を守ろうという、そういう趣旨でありまして、つまりその妻との間、夫と妻との間に生まれてきた嫡出子、これを保護しようという趣旨でありますから、これは我が国の家族制度あるいは婚姻制度の根幹にかかわる問題だと思いますので、慎重な議論が必要かと思います。

○松井孝治君 同じ質問なんですが、潮谷参考人はどのようにお考えでしょうか。

○参考人(潮谷義子君) 妊娠葛藤相談の窓口を私ども熊本県、開いておりますけれども、これは決して産ませるというような、そういう観点からではありません。その事例の中で、やはり望まない妊娠であっても、おなかの中に赤ちゃんが宿ったときに産みたいと、そう願っている女性たちがいる、あるいは男性がいるということもあります。
 そしてまた、私は、社会的に婚外子の子供たちについても命の価値は変わりないわけですから、ひとしく認めていくということ、これが物すごく大事ですし、また、その前提条件の中には人々の多様な生き方を認め合う社会の構成の在り方というのが私は考えられなければならないと思います。特に、熊本のような田舎の中にありましては、正式に結婚をしないで妊娠した、そういうことに対して母と子、共々にスティグマという感覚の中でとらえられ、それが妊娠中絶の中に走らせているという事例もたくさんございます。
 そういったことを考えましたときに、命の価値はどんな状況の中であっても等しいと、そういうことの中で私どもは差別のないこういった形を考えていくことは大事だと思います。

○松井孝治君 ありがとうございました。
 本来、泉参考人にも御質問をしたいと思っていたんですが、時間がもうあとほとんどなくなりました。
 この問題は本当に個々人の価値観が反映をする問題でございまして、私自身も自己決定権ということは非常に大切なことではあると思いますが、他方で、八木参考人がおっしゃったように、行き過ぎた個人主義というものが家族や家庭の価値というものを壊してしまってもいけない。しかし、今の核家族化が進む中で、家庭、家族、あるいは近親者、血縁者のみで教育が担われるというのもなかなか難しい。そこのバランスをどう取りながら本当にこの少子化というものを歯止めを掛けていくのか、それが非常に重要な課題だと思います。
 今後とも御指導を賜れば大変有り難いと思います。ありがとうございました。

○山口那津男君 公明党の山口那津男でございます。
 参考人の皆様には、大変お忙しい中を貴重な御意見を賜る機会をいただきまして、本当にありがとうございました。
 まず初めに、八木参考人に伺いたいと思います。
 私事で申し訳ありませんが、私の母親は、十歳まで専業主婦、子育てに専念しておりました。その後、小学校の教員として職業を持つようになりまして、勤め上げました。そういう経験は私自身にとっては良かったと思っております。十歳までの経過というのは自覚的にその良さを語ることはできませんけれども、職業を持ってからの母親像というのは、やっぱり社会との接点を持つという意味で非常に視野が広がったと、こういう実感を持ったわけですね。M型の就労が容易にできる社会というのは私は好ましい社会だろうと思っております。その意味で先生の御主張に共感するところが多いわけであります。
 呉越同舟という評価もありますけれども、それはさておいて、先生の結論は、やはり働く、働かないで生涯所得が大きく違うと、産まない方が得であると、こういう制度というのは良くないと、こういう視点だろうと思います。
 そこで、児童手当についての御質問も既にありましたけれども、これを現状よりも拡大していくことの方が望ましいというお考えだろうと思います。その拡大の在り方として、例えばヨーロッパ諸国のように、十五、六歳まで、日本でいえば義務教育年齢を終えるぐらいまでこの支給の制度を作っていくべきだ、延ばしていくべきだ、こういう方向性と、あるいはむしろ幼児期における支給をもっと厚くすると、こういうやり方、それから、先ほど傾斜的な配分の在り方も考えると、こういう御意見もありました。
 そんな中で、これからの児童手当の拡大はどういう方向が望ましいと思っていらっしゃるか、御意見を伺いたいと思います。

○参考人(八木秀次君) 政策判断にかかわる問題で、私の領域を超えた問題でありますけれども、実感的なところで述べさせていただくならば、やはりヨーロッパ型のかなり遅い、義務教育を終える時点ぐらいまで児童手当を手厚く支給するという形がよろしいかと思うんです。
 と申しますのは、教育費の問題が今子供を持つ家庭にとっては大きな比重になっております。これがまた子供の数を抑制させる要因の一つであるとも指摘されております。よって、少なくとも義務教育を終えるまでは教育費の分も含めて児童手当を拡充するという方向で御検討願えればと思っております。

○山口那津男君 それでは次に、潮谷参考人にお伺いいたします。
 知事さんとして、あるいはそれ以前の行政の現場での御経験、あるいはまた民間の保育園、幼稚園等の様々な教育施設の中で御経験豊かだろうと思います。このたびの少子化社会対策基本法はあくまで基本法でありまして、個別法の分野でも、昨日成立しましたけれども、次世代育成支援を推進すると、こういう具体的な法律もできたわけであります。
 これら、言わば子育てを支援する総合的な法制というものを国は進めつつあるわけでありますが、自治体を預かる立場でいろいろお悩みも実際にはあるのではないかと思うんですね。その率直なところ、そしてまた国にいろいろと注文を付けたいところ、こういうところを忌憚なくお聞かせいただければ有り難いと思います。

○参考人(潮谷義子君) 一つは、今まで確かに、次世代育成支援対策推進法案が昨日、そして児童福祉法、育児・介護休業法、個々ばらばらな法が出ております。しかし、地方を預かる行政の立場から申し上げますと、ここにはすき間がございます。そのすき間を私どもは、先ほどお話をしましたような形の中でできるだけ埋めていこうという役割、国と一緒に県として担う役割を今考えて推進しているところです。
 それからもう一つ、私たちの中で申し上げますと、これまで国家としての重要な法案と、このように政策が認識された分野におきましては、基本法という形の中で制度化されていき、そこからそれぞれの市町村が計画を策定してくるという状況がございました。エンゼルプランに関して申し上げますと、児童福祉法があるから、じゃ、エンゼルプランが策定義務であったかというと、そうではございませんでした。
 一方、高齢者の問題については、基本法でございましたので、各自治体はそれは責務として策定するということで、やはり基本法に定められるということによっての強さというものがありますので、やっぱり社会全体における取組が推進されるきっかけとしては、是非、基本法という形の中での歩みが非常に大事かというふうに思います。
 それから、今回、第八条の中で、この法案が通りますと財政上の措置が明確化されておりますけれども、実は先ほど申し上げましたように、熊本県独自で子育てにかかわるいろんな支援をやってまいりましたときに、財政の捻出をどのようにやっていくかということは大変大きな課題でございます。本当に少子化社会を真正面からとらえて基本法が成立されていく中では、財政的なことにかかわる期待というものも私ども大変多く持っております。
 また、本当にこの少子化問題を考えてまいりましたときに、どれぐらい財政的にしっかりと取り組んでいっていく方向性が見えてくるのか、そういった点も私は注視してまいりたいと思っております。
 以上です。

○山口那津男君 もう一問、潮谷参考人に伺います。
 男がもっと子育てや家庭の維持、家庭生活にもっともっとかかわらなければならないというのが私の持論であります。私事ですが、子供三人おりまして、いずれもラマーズ法という出産法で産みました。男も出産に立ち会い、かかわるということでありますが、その経験の中で、やはり生まれてくる命を自ら関与するということで、非常に厳粛な気持ちといいますか、命に対する非常に畏敬の念というものを持ったわけであります。そして、産む段階からその後の育てる段階に、やっぱり男性のかかわり方についての非常に大きな責務というものを感じ取ることができたと私なりに思っております。
 しかし、その割には、女性の社会進出についてはいろいろな制度が考えられてきましたが、男社会というのは一向に変わっておりません。現に、育児休業を取りたいと望んでもなかなか職場の環境はそれには向いておりません。そこで、これを推進することが私は必要だと思います。次世代育成支援法でもそういう計画を立てることが職場に義務付けられているわけであります。
 そこで、県も一つの職場であります。ここでやっぱり男性職員の方々がそういう子育てあるいは家庭の維持にかかわれる環境ができているかどうか、また、これからどうそれを促進されていかれるかどうか、これを自治体の経営者のお立場で御意見をお聞かせいただきたいと思います。

○参考人(潮谷義子君) 本当に子育てというのはすばらしいと私は思いますが、それに男性が参画する機会を失っているというのは何ともったいないことだろうという思いがあります。
 子育てにかかわりますと、命の不思議さ、それに度々私たちは目を見張ります。例えば、十か月から十一か月ぐらいの赤ちゃんたちが何回も立ち上がってしりもちをつきます。でも、そのおしりの周りには青あざも何もできていなくて、子供は本当にトライを何回も何回もやっています。それは立位への一歩ですが、そんな不思議さがあります。また、授乳をしているときに、両方のほほの筋肉、これがどんなに重大な病気を抱えても残っているというようなことも経験します。
 男性が育児に参画をするというのは、私は、命そのものへの畏敬とそれから本当に不思議さに出会う良い機会ですので、是非参画をしていただきたいという願いがありますが、しかし、ただいま山口議員おっしゃいましたように、なかなか男性が育児に参画をするという素地ができ難い状況にありまして、熊本県でも今やっと、これは知事部局の中で申し上げて一人、男性が育児休暇を取ったにすぎないと、こういう状況がございます。
 そういった意味で、私ども、今後とも男性が参画できる土壌作りをやっていかなければならないと思いますし、また、国においても父子家庭に対しての支援策というのが、これは非常に母子家庭等々に比べて支援策の弱さがございますので、そういった意味からも、私は男性、女性共々に育児の参画ができるという社会が大事だと思っております。

○山口那津男君 吉岡参考人に伺います。
 保育園が今、女性の男女共同参画を進める上で非常に重要な役目があるということについては全く同感であります。私どもも、そういう観点から保育所の増強というものに力を入れてきたつもりであります。しかし、また一方で、子育て支援という意味では幼稚園の果たす役割というものもこれは大きくあると思うんですね。
 最近では、女性が自分の時間を生み出すために保育園を選択するという事例も増えているのではないかと思います。単に職業を全うするために預けるというだけではなくて、むしろその他の活動に生かしたいために子供を預けると、こういうニーズも非常に多くなっていると思います。その意味では、保育園か幼稚園かとの選択は正に意思の問題でありまして、相対的になってきているんではないかとも思うわけですね。
 現実的に、幼稚園と保育園への公的支援の金額というものは十対一ぐらいの大きな開きがあるということも言われて久しいわけであります。その意味で、私はむしろこの幼稚園の役割というものも考えた上での子育て支援の在り方という意味では、もうちょっと格差を是正するということも図っていかなければならないと思っているわけでありますが、その点についての御感想をお聞かせいただきたいと思います。

○参考人(吉岡睦子君) 私が先ほど意見を申し上げましたのは、幼稚園の役割を否定するという趣旨ではございませんで、あくまでこの少子化対策の基本法という法律の中に幼稚園の問題がわざわざ一項設けられて突出しているという、その全体的な法律としてのバランス上、不自然であるという趣旨で申し上げました。
 ですから、今、議員がおっしゃいましたように、子育てのニーズというのは多様化しておりますし、働く女性たちにとっては両立支援というのが非常に重要になりますし、家庭におられる女性たちにとっては、今おっしゃったようなニーズもあることは事実ですし、育児不安が非常に高まって家庭でのなかなか責任を負い切れないというような部分がありますので、どちら、幼稚園とか保育園、いずれを選択するにしてもやはりニーズに現実にどうこたえていくかというところが重要かというふうには思っております。

○山口那津男君 あと、生命の尊厳という言葉、これについて削除すべきだと、こういう御意見もいただきましたけれども、しかし、昨今の沖縄やあるいは長崎の未成年が被害者になるという、あるいは加害者でもあると、こういう事件を見たときに非常に慄然たる思いを抱くわけであります。
 私は、生命の尊厳というのはどういう分野でも強調されてされ過ぎることはないと、このように思っております。そして、この法案の提出者に私は、アメリカの妊娠中絶、人工妊娠中絶に絡む裁判運動を例に出して、これにその生命の尊厳という文言が、ある種の価値観あるいは宗教的価値観をも背景にするものであるかどうかと、こういう質問もいたしました。提案者としては、そういうイデオロギッシュあるいは宗教的価値観とは全く関係なく、もっと基本的な、素朴な生命の尊厳という趣旨を規定したものであると、こういうお答えだったように思っております。
 その意味で、私は、この生命の尊厳という言葉はむしろ強調されることすら必要でありまして、削除することは必要ないと、こう思っておりますが、御意見があれば伺いたいと思います。

○委員長(小川敏夫君) どなたに。

○山口那津男君 吉岡参考人。

○参考人(吉岡睦子君) 生命が尊ばれるべきであるということは当然のことでありまして、私も含めて、だれも反対することではございません。むしろ、現在、その点が非常に重要だというのは同感いたします。
 ただ、先ほども申し上げましたように、この法案で女性たちが一番危惧しておりますのは、自己決定権が侵害されるんじゃないかと、制約されるのではないかという危惧を持っている人たちが現実に大勢いるわけです。そういう危惧を持たれている法律の中に自己決定権の制約の根拠に使われかねない言葉を入れると、そういう趣旨で反対をしているということでございます。

○山口那津男君 泉参考人に伺います。
 女性と労働という問題に長くかかわってこられたお立場で、私はこの少子化と同時に高齢化社会との関係というものを考えていかなければならないと思います。高齢化社会を支えるために産めよ増やせよと、こういう考え方は私は本末転倒だろうと思うわけであります。むしろ高齢化社会の中で、例えば高齢者に対する年齢差別でありますとか、あるいは女性の性による差別でありますとか、こういうことの障害をなくすということが大事だろうと思うんですね。
 高齢者の女性の方の働く場を広げるということについて、今後の在り方について御意見を伺いたいと思います。

○参考人(泉ミツ子君) おっしゃるとおりでありまして、高齢者、特に女性の場合、一度退職をして家庭にいて、あるいは再就職をするとか、あるいは働き続けるとか、そして定年になると、そういった問題、たくさん事例が出てきて大変問題になっているわけですけれども、高齢者自身が長く働き続けられる場所があるということ、これが一番大事なことだと思っています。特に、寿命も延びまして八十何歳ということになりましたから、そこまで全部が社会に出て働けるという状態ではないと思いますが、その人の健康なりあるいは能力なりで働ける場があれば自立して生きていけるような、そういう場が欲しいというふうに思っています。
 しかし、現実には、現在の女性労働の在り方というものを考えますと、年齢差別がまずありまして、若いうちは三十五歳以上は要らないとか、あるいはこの職業は四十歳までだとか五十歳までだとか、いろんな年齢によって区分されていくというような、格差を付けられていく、差別をされていく、そういう問題がありまして、大変女性が働き続けて自立をするということへの障害になっているというふうに思っております。
 高齢化の問題で、介護の問題等、いろいろと私どもも取り組んでまいりましたけれども、高齢化の問題は両親を、年老いた両親を抱える働く女性、あるいは男性ももちろんそうですけれども、家族にとっては大きな負担になりますし、それから、自分たちが高齢化、加齢をして高齢化した場合に自分の身をどのように自分で処していくかという、自立をしていくかという問題からもやはり経済的な背景というものは必要だというふうに考えますと、働ける間は女性も男性も働き、収入を得、自立をしていくと、そういう形の社会であってほしいなというふうに思っております。
 的確な答弁にならなかったと思いますが、私はそのように思っております。

○山口那津男君 ありがとうございました。終わります。

○吉川春子君 日本共産党の吉川春子です。
 今日は四人の参考人の皆さん、有意義な御意見を本当にありがとうございます。
 まず、吉岡参考人にお伺いします。
 私は、日弁連の意見書を拝見いたしまして、かなりの部分同感いたしております。それを前提として伺いますが、少子化が今の日本にもたらしている影響について、どのように認識されているでしょうか。

○参考人(吉岡睦子君) これはプラス面、マイナス面いろいろあり得ると思います。ですから、一概にどういう評価をするかということはいろいろ議論の余地があるかと思います。
 ただ、マイナス面でいいますと、労働力の問題、それから年金制度等の社会保障の問題、そのようなマイナス面が危惧されるということは理解しております。それから、プラス面については、環境問題、住宅問題、それから地球規模で見た場合にどうかという点で、必ずしもマイナス面だけではなくプラス面もあるという意見があるというふうに認識しております。

○吉川春子君 私どもはこの少子化基本法に反対はしておりません。さっきちょっと参考人の方の中に誤解があったようですけれども、賛成をしております。それで、今の少子化の社会、このままでいいとは思っておりませんで、やっぱりもっといろいろな面で変えていかなくてはならないという立場におります。
 それで、吉岡参考人にもう一問伺いたいんですけれども、子育ての親の責任についてなんですけれども、子どもの権利条約の中に、子育ての第一義的な責任は親にあるという規定があったと思うんですね。その点で私たちは、この規定は重要だと、法案の中の規定は重要なものだと思っているんですけれども、同時に、家庭や子育てに夢を持つという点で日弁連として御意見を述べておられましたね。
 それで、同じ条文の中に入っているので、この部分だけが反対なのか、それとも、親に一義的な責任があるというこの条文に疑問をお持ちなのか、その点はいかがでしょうか。

○参考人(吉岡睦子君) 親に第一義的責任があるということが子どもの権利条約に明記されていることは承知しております。ただ、同じ子どもの権利条約の中では、親に第一義的責任があるのと同時に、たしか、とともにという言葉が入っていたと思いますが、国も親が責任を果たしていけるようにサポートしていく責務を有するというような、そういう定めがあったと思います。
 ですから、親に第一義的責任があるということ自体を否定はいたしませんが、同じ法案の中の国の責務が抽象的だということと照らし合わせますと、やはりここに第一義的責任ということを明記する以上は、国の責任についても、先ほども申し上げましたように、環境整備の義務をもっと明確に書いていただけないかということがあります。ですから、中心としては、やはり夢を持ちというその内心に踏み込む部分を中心に反対しております。

○吉川春子君 吉岡参考人にもう一つお伺いしたいんですけれども、少子化の主たる要因は仕事と育児の両立の困難性にあるというふうに述べられていますね。この点について端的に御説明いただきたいと思います。

○参考人(吉岡睦子君) 様々な問題点があると思いますが、今、女性たち、男性もそうですけれども、子育て責任を果たしていこうという場合に、労働の問題あるいは意識の問題等で様々な障害があります。労働の問題でいえば、長時間労働、それから育児休業を非常に取りづらい職場環境というような、ともかく家庭責任を果たすことについて非常に冷たい雰囲気、雇用慣行というものがあります。
 それから、家庭内の分担につきましても、最近の調査でも、男女の役割分業の解消は二十年前と比べて日本の場合ほとんど進んでいない、解消されていないというような調査結果もありましたけれども、女性に仕事、家事、育児の責任がほとんど掛かってきているというのが今の現状だと思います。ですから、それが長期的に見れば少子化ということの大きな原因になっているというふうに考えております。

○吉川春子君 潮谷参考人にお伺いいたします。
 リプロダクティブヘルス・ライツについてどのようにお考えでしょうか。私は、二人の子供を育ててまいりまして、非常に苦労は多かったけれども豊かな人生を送れたというふうに自分自身は考えております。同時に、今度のこの基本法に反対の御意見もたくさん寄せられている中に、子供を産まない女性、産めない女性に対する圧迫になるのではないか、この危惧の声が多いわけで、私はこの点についても非常に共感できるわけです。
 子供を産もうが産むまいが、やっぱりそれぞれの人生が送れる、そのことが可能になっているのが今の日本の社会ではないかと思いますが、そういう点で、自己決定権と単純化されてはいるんですけれども、そのリプロダクティブヘルス・ライツというものについてのお考えを伺いたいと思います。

○参考人(潮谷義子君) カイロ国際人口・開発会議の行動計画の中で中絶の自由が認められているかについては、必ずしも私自身は詳しく詳細にということではありませんけれども、しかし、その中には中絶の自由というのが認められているというふうには受け止められ、私自身は受け止めてはおりません。
 その中で、望まない、その中にあります中で、行動計画の中で、妊娠中絶が健康に及ぼす影響、それから望まない妊娠についての最優先課題、そういったことで妊娠中絶の必要性をなくすためにあらゆる努力がなされなければならないと、こういった点が明確に出てきている部分だというふうに思っております。
 私は、人生の選択の中で、産む、産まないということ、その自由はしっかりと意識をされなければならないと思うんですけれども、一方、私は、生殖というその行為に入る前に男性と女性の人権、人格が平等であるという感覚、これが大事であって、体内に赤ちゃんが宿ったというときに中絶の権利があるからというような形の中で考えていくというのはいかがなものであろうかという、そういった個人的な疑問は持っております。
 以上です。

○吉川春子君 自己決定権と言っちゃうと非常に狭いんであって、リプロダクティブヘルス・ライツというのは、やっぱり女性の健康・権利というふうにも翻訳されておりますけれども、生涯を通じての健康・権利、そういうふうに私はとらえておりますが、どうもありがとうございました。
 八木参考人にお伺いいたします。
 八木参考人のお考えを伺っておりますと、女性が社会に出て働くということについて非常にマイナスのイメージをお持ちなのかなという印象を受けました。やっぱり好むと好まざるとにかかわらず、女性の社会進出というのは現在の趨勢でありますし、権利であるという側面と労働力として必要とされているという側面とあると思うんですけれども、私はどちらかというと権利ということを重点に考えている立場です。
 母親が家庭で十歳まで子供を育てるということが、人によっては可能かもしれませんけれども、そうでもない女性がたくさんいるということを考えるときに、やはり育児の社会化、言葉はエンゲルスのをそのまま使うかどうかは別として、育児の社会化ということは必要であり、これを今、国の政策でも否定していないと思うんですけれども。
 そういう点で、例えば女性の社会進出が少年非行の要因である確率が非常に高いとか、そういうふうにおっしゃっておられますけれども、母親、女性が社会に出て働くということについて非常に消極的なお考えなのでしょうか、お伺いいたします。

○参考人(八木秀次君) 誤解があると思いますので弁明をしておきますが、私は女性の社会進出を否定しているわけではありません。ただ、子供を産むのは女性でしかできないですね。また、その産んだ女性はそこから、十か月間体内に子供がいるわけですから、そこから体外に出た後、じゃほかの人が育ててくださいというわけにはこれは自然の摂理からしていかないのだと思うんです。そういったことを考えますと、女性の社会進出がマイナス面があるんだということを認識しつつ働き方を考えるべきだという主張をしているわけです。
 子供の質というところ、その点が今日の社会の中では余り認識されていないのではないかと、ひたすら女性の社会進出が良きものとして、一〇〇%良きものとして主張されているように私は受け止めておりますけれども、しかしそこに見えない部分あるいはマイナス面もあるのではないかということを認識して現実的な判断をすべきではないかというそのことを申し上げたわけです。

○吉川春子君 日弁連の吉岡参考人の御発言の中に、OECDの国々で、女性の就業率が高く、自己決定権が保障されて、子育てへの男性の参画が進んで出生率が高くなっているという、こういう御発言もありまして、やはり本当の意味でそういうものが保障されれば出生率も高くなっていくのではないかと私は考えております。
 最後に、フォーラム・「女性と労働21」の泉参考人にお伺いいたしますが、先ほどお述べになりました中で有期雇用労働者が適用除外されているということを根本的に考え直してほしいと、育児休業、介護休業について、その点について御提案があればもう少し詳しく述べていただきたいと思います。

○参考人(泉ミツ子君) 育児休業法の第一番の問題は、先ほど申し上げましたように、通常の労働者であって雇用保険に加入している人、それから通常の労働者という形にはならないと思いますが、有期雇用には適用しない、これ除外をするというのが明記されているわけですね。
 有期雇用の問題についても、いわゆる期間を区切った専門職の有期雇用の場合と、それからパート等の短期雇用であってもこれを継続し反復更新していくような場合の有期雇用の在り方というふうなのが、いろいろあると思いますが、こちらの方は反復更新していけば通常の労働をしたものとみなす、それで育休を適用すると、そういう形に通達を出されまして、一つ何というか救済策が取られているわけですけれども、この問題をもう少し考えていきますと反復更新した場合の問題だとかいう形になりますが、今起こっている問題で私ども考えておりますのは、いわゆる専門職の有期雇用の場合です。
 先ほど申し上げましたように、通常三年の雇用契約期間というものが今度五年に延びました。そうしますと、五年という長期の契約の中で妊娠し、あるいは出産をするという、あるいはそして育児休業を取りたいとか、そういう状態にならないことはないわけでありまして、そういうことを契約違反だという形になるのかと、そういった問題も起こってこざるを得ないだろうと。そういった問題についてはどうするんだというような問題も少し研究していただきたいなというふうに思っております。
 例えば、派遣労働の場合は、一応、派遣元との雇用契約におきまして一応一年なりそれ以上なりの雇用が見込まれる場合は雇用保険にも入れるという形での整理がなされておりますけれども、通常は派遣先の言うなら雇用期間に応じまして、大変最近は短くなっているようでありまして、三か月だとかあるいは四か月、あるいは半年という形で、一年未満の派遣になるわけですね。そうしますと、雇用保険に入っても、すぐ雇用保険から、派遣期間が終わりますと雇用契約が終了して、雇用保険からもう脱退をする、そういう複雑な状況にありますので、こういう働く人たちの条件というものを、権利と言った方がいいと思いますけれども、どのように継続し保障していくかと。そういった問題がやはりこの裏の問題としてあると思います。
 ですから、これをどのように、雇用保険になっているからこそこの問題が起こるという問題もあるわけですけれども、一体どこから育児休業の場合の給付をするのか。財源の問題も絡めて、何とかそういう派遣だとかあるいは短期雇用の場合の問題を適用対象にするにはどうしたらいいのかということはいろいろ考えておりますけれども、半年とか一年以内でしか働かない人に対して育児休業取るというのもちょっとどうなのかなというような問題もありまして、そういうことがありまして、育児休業そのものが雇用期間一年以上の雇用継続がある場合の通常の労働者という形から始まっているわけですから、その問題も一つ適用対象の要件といいますか、そういったもの自体についても考え直さなければいけないんだろうなというふうに思っております。財源の問題ですね、一つは。

○吉川春子君 終わります。ありがとうございました。

○島袋宗康君 国会改革連絡会の島袋宗康でございます。今日は四名の参考人の方々、大変貴重な御意見を拝聴し、大変感謝申し上げます。
 それぞれお一人ずつに質問したいと思います。
 まず、八木参考人の方にお願いします。
 近年、我が国では晩婚化が非常に進んでいるということが言われております。そこで、ちなみに平均初婚の年代は、平成十三年には夫が二十九歳で妻が二十七・二歳ということであります。また、我が国の出生率が、人口千人当たりの出生数が年々低下をしておりまして、平成十三年には九・三人になったということであります。
 このような晩婚化と出生率の低下という社会現象の要因ですね、主要な要因はどういう点にあるのか、その辺について八木参考人に御意見を承りたいと思います。

○参考人(八木秀次君) 晩婚化の原因については様々な指摘ができると思いますし、複合的な原因で晩婚化に至っているんだと思いますけれども、先ほど意見陳述の中でも申し上げましたけれども、今年度の国民生活白書の中にアンケートが掲載されておりまして、「結婚して特に不利益になると思われる点は何だと思いますか。」と、こういう問いに関しての上位の答えが「自由に使えるお金が減ってしまう」、「やりたいことが制約される」、これがほかの選択肢を大幅に抜いて、この二つが主要な理由に挙げられております。それを受けて、国民生活白書では若者が結婚しない理由として、「自由に使えるお金が減ってしまうことや、やりたいことが制約されることをあげる人が多い。」と、こういう結論を出しているわけでありますけれども、私はこれは極めて説得力のある理由だと思います。
 意見陳述の中でも申しましたが、私が思うに、バブル期に日本人の価値観が大きく変わったんだと思うんです。これがいまだに戻っていないと。銀行の不良債権問題とこれは同じなんです。少子化問題は銀行の不良債権問題と同じ、バブル期の負の遺産がここに現れているんだと、こう認識しております。若者が、もっと豊かに、もっと自由を、もっと自己実現をと、そういった価値を専ら抱き、結婚する、あるいは子供を生み、育てるという価値を二の次あるいは価値の低いものとして位置付けているところに晩婚化や少子化の原因があると私は認識をしております。

○島袋宗康君 潮谷参考人にお伺いいたします。
 行政のトップにあって、働く女性の立場から、女性の職業と出産、育児という、子育ての両立のために現在国に求められている最優先の施策は何だとお考えですかということと、また知事として地方行政上、この点に関連してどのような施策を推進しておられるか、また隘路があるとすればどういう点にあるのか、お聞かせ願いたいと思います。

○参考人(潮谷義子君) 国は、子供を育てる環境づくりということに対しましては、いろいろな方策をいろんな領域の中で出してきております。しかし、それが一般県民の中に確実に届き、理解されているかという点を考えましたときに、その情報がなかなか届いていないという側面がありますので、地方行政としては、まずは国が出している行政の施策、子育て、そして介護、そして職業の両立、この点に対しての施策をアピールし、情報が手に入れやすいような条件を作っていくということが大変大事だというふうに理解しています。そのために、熊本県の中では、市町村に対しまして、トップセミナーあるいは福祉方策にかかわる担当の方々に対してのセミナーを充実をさせております。
 それから、子育てと仕事の両立ということを考えてまいりましたときに、むしろ多岐にわたる方策が出ていますときに、実は家族そのものが、一つ一つの方策でいくと女性が働くための条件整備ということで、保育所があったり、あるいは時間の延長策があったり、あるいは幼稚園と保育所とのドッキングをというようなことがありますけれども、しかし家族そのものに目を当てていくということが大変少ないという状況があります。例えば、障害児を抱えている家族の中で、障害児施策が充実をしているから働くことができるかといいますと、そうではなくて、夏休み、子供たちが学校から休みになったときにその子供を預かってくれる地域の施設がない、あるいは保育所等々を含めたデイサービスがないという、そういう現実がありますので、熊本県の中ではそうしたものを今施策の中に展開をしているという状況があります。
 それと同時に、やはり国は、子供を含む家族という観点の中から何が非常に、女性たちが働く、男性たちが働くときに必要であるかという観点からの見直し、それが私は一つ大事な視点ではないかというふうに思っております。
 以上です。

○島袋宗康君 吉岡参考人にお伺いいたします。
 法律家として、特に在野の法律家の立場あるいは女性法曹としての立場から、本法律案に対して最も問題だと思われる点、そしてそれはどのような点なのか、お聞かせ願いたいと思います。

○参考人(吉岡睦子君) 最初の意見陳述でも申し上げましたけれども、やはり一つだけ申し上げるとすれば、女性の、女性だけでなく男性ということもあると思いますが、自己決定権との関係です。少子化対策という言葉もそうですが、要するに女性に子供をどういうふうにして産んでもらうかということですから、本質的に女性が自己決定することと矛盾するというか、そこに踏み込む危険性を持っているわけです。
 ですから、その点は、やはり現在のようなあいまい、あいまいという言い方はちょっと語弊があるかもしれませんが、前文にある程度記載するということではなくて、基本理念の中にきちっとその点が保障された上での子育て支援なんだということを位置付けていただきたいというのが最もお願いしたい点でございます。

○島袋宗康君 泉参考人にお伺いします。
 女性の生きがいについての御意見と、本法律案において足りないと思われる点、そして余分だと思われる点、その辺について御意見があれば承りたいと思います。

○参考人(泉ミツ子君) 私は、基本法を作られて個別法を総合的に法律ごとのすき間を埋めながら、補いながら施策を遂行されるということについては大変重要なことだと思っております。ただ、今度のこの基本法の中身については、いろいろ反対の意見というか、みんなが危惧する意見も持っておりまして、特に女性の自己決定権の問題については大変心配をしているわけです。これが、ちょっと被害妄想じゃないのと言われるかも分かりませんが、今、大変女性たちが心配をしているのは、国を挙げて、地方行政を挙げて子供を出産しろという形に動いていった場合に相当な圧力が、子供を産みたくない人、産めない人、いろんな条件の女性がいますけれども、こういう人たちに対する圧力というものが掛かってくるのではないかと。
 そういうことにはならないように是非したいと思いますけれども、そういう問題を危惧しておりますので、その点について、何か歯止めでここにも、歯止めというのもおかしいんですが、この法律の中に明示するようにして、みんなが安心して子供を産み育てられるような社会づくりなんだよと、そのための基本法なんだよという形のものを示していただければ大変有り難いことだと思っております。
 それから、もう一つあれですけれども、衆議院の方で修正されましたいわゆるこの基本的なあれで、附則のところで、「結婚や出産は個人の決定に基づくものではあるが、」という形で、「もとより、」という形で追加をされましたけれども、これは私の読み方の問題かも分かりませんが、「決定に基づくものではあるが、」という形になると、どうもこれ、ちょっと否定されるような形、せっかく書いたんだけれども、ただ、しかしねという形で否定をされるような形になると思いますので、
「基づくものではある。」というような形に切るとか、もう少し明確にこの表現が生きるような形に御修正いただければ、もう少し私たちの心配もなくなるし、法案の、基本法そのものが生きてくるのではないかと思っております。
 それから、最後に申し上げたいと思いますのは、どうしてもこの責務の問題で、事業主の責務というのが大変、まあ言うなら、事業主は国又は地方公共団体の施策の実施、「団体が実施する少子化に対処するための施策に協力するとともに、」という形になっておりますけれども、今一番私たち女性あるいは全体の問題として事業主の雇用労働の場における、何といいますか、問題が一番大きく出てきておりまして、例えば、年金でもそうですけれども、パート労働者には、いわゆる法定福祉費、社会保障費を免れるために短時間労働で、短期労働でという形に女性の労働を、在り方をそこに押し込めていく、あるいは年金制度にも入れないし、雇用保険にも、雇用保険はちょっと変わりましたけれども、そういう形と問題で、一労働者としての処遇から除外していこうという形のものがあります。
 特に、これは男性も女性もという形じゃなくて、女性の働き方についての形のものが多くありまして、これを大きく見るならば、これも社会的な性別分業観じゃないかなというふうに思うんですけれども、こういう問題がありますので、事業主、いわゆる経済的な問題で、女性の労働を、そういう事業主の責務を社会保険料の負担という問題から除外をし、とにかく必要なときに働いてもらえればいいんだというような一つの雇用の在り方に変えていっているという今の在り方が、これからの女性の労働あるいは社会的な労働をどのようにつなげ、社会の発展に寄与するような労働に変えていくのか、高めていくのかという問題からも大きな問題だと思います。
 女性も一人の労働者として働き続けられる、そういう形のものにするための事業主の責務というものを、やはり女性も男性も同じように均等待遇をする、社会保障の面についても均等待遇をする、そういう形に是非是正されるようにお願いしたいというふうに思っております。

○島袋宗康君 ありがとうございました。

○黒岩宇洋君 無所属の黒岩宇洋でございます。
 本日は、四名の参考人の皆様、本当に貴重な御意見、ありがとうございます。
 私、本日、私自身も非常にいい機会に恵まれたと思っております。
 というのは、ここに新聞記事がございます。これ、八木先生がちょっと触れているんですけれども、私の選挙区である新潟県白根市のある小学校が男女混合名簿をやめたと、御存じだと思うんですけれども。私の時代も、学級名簿というのは男子と女子が分かれて、そして男子が先に書かれておりました。多分ほとんどの学校はそうだったと思うんですが。今、私の新潟県では、九三%の小学校が男女同じ名簿なんですね、あいうえお順で。これによって男女も同じく共同して社会に参画していこうという、私、そういう趣旨だととらえているんですけれども。この校長先生が、要は八木先生のある著書を基にこれをやめるとおっしゃったわけです。
 これは、男女混合名簿はジェンダーフリー思想があり、そのジェンダーフリー思想の根底はマルクス主義フェミニズムだという。私、これ読んだときに、結構こういう論調もあるのかと思って、今回、少子化対策についてこのことを取り上げようと思っていたやさきに、この参考人質疑で八木先生がおいでになるというので、改めて確認したかったんです。
 先生のこれ「諸君」の文章も私、読ませてもらいました。たしか、エンゲルスの著書の中にもそういったジェンダーフリーに触れているとは思います。ただ、私は、これから、もう因果関係として、必然として、今のジェンダーフリー教育といったものが引き出せるとは思いません。ある意味でちょっと極端な論理付けだと思うんですけれども、そのほか、この「諸君」の中でも、例えばこの少子化対策の法案について、男女が、女性はすべて労働するものという認識に立っていることを示しているというちょっと決め付けの論調が多いと思うんですけれども、そういう意味も含めて、本当にマルクス主義フェミニズム、こういったものに起因しているということが断定できるのか、ちょっとそこをお聞かせください。

○参考人(八木秀次君) その御質問は、いい機会だからということで御質問なさっていると受け止めてよろしいんでしょうか、本法案に関する関連質問というふうに受け止めてよろしいんですか。

○黒岩宇洋君 関連でございます。

○参考人(八木秀次君) はい。それでは、まず、ジェンダーフリーという考え方につきましては、私は否定的に理解しております。
 そして、このジェンダーフリーの考え方は、フランスのクリスティーヌ・デルフィーというマルクス主義フェミニズムの学者の考え方から出てきていると私は理解をしております。したがって、マルクス主義フェミニズムと言って何が悪いのかと思うわけでございます。
 それから、この男女共同参画という概念につきましては、これはジェンダーフリーとは異なるものだということが、これが政府の認識にもなっておりますが、その上であえてジェンダーフリーというお話が出てくる御質問の趣旨が私は量りかねますので、どういうふうに答えてよろしいのかちょっと分かりません。

○黒岩宇洋君 確かに、男女共同参画局に言わせても、ジェンダーフリーというものを特段、文言として推し進めているわけではないと、私もその認識は持っています。
 今回のこの陳述書を拝見しても、この少子化対策、少子化社会対策基本法案は要するに第二の男女共同参画基本法という性格を持っていると、非常に男女共同参画社会ということに対しても、すらも否定的に私はとらえているんじゃないかという、そういう気がしております。
 それで、じゃ、果たして今、我が国でどれだけ男女が共同に参画できていないかと、これ一つ一つあげつらえば、たくさん問題があると思うんですけれども。これも済みません、八木参考人にお聞きします。HDIという一つの指数があります。これ人間開発指数というもので、教育水準とか様々なもので人間の能力について測る度数なんですけれども、これ非常に日本の女性、高いんですね。これ今、一九九九年ですけれども、世界で第四位という。
 もう一つの指数があるんです。これはGEMという、これジェンダー・エンパワーメント測定という、これは、例えば国会議員に占める女性の割合とか、行政職及び管理職に占める女性の割合等で指数を出すと。これになりますと、日本は三十八番目という非常に低い数値になるんですね。そのことから示されるように、我が国は非常に男女が同じく共同参画していない、社会に参画していないと、私はそういう数値の表れだと思っています。
 このことについて、じゃ、男女共同参画社会というものを推進していく以外に、どうすれば、どのようにすれば男女がともにこの社会に住んでいけるのか、そして社会に参画していけるのかと、そのことについて八木参考人、お聞かせください。

○参考人(八木秀次君) これは、男女共同参画社会基本法ができる前段階の議論をもう一回振り返ってみるということになるかと思いますけれども、男女がお互いにその特性を是認してお互いに異性として尊重し合うというのが私はあるべき男女共同参画の考え方だと思いますけれども、しかしこれが、その特性を否定するという前提の上にこの基本法ができ上がったということが起草のプロセスを明らかにしたものの中に書いてあります。したがって、そういう意味での男女の特性を無視する、そういった男女共同参画については、それがジェンダーフリーというものであるかと思いますけれども、それについては私は否定的に考えるわけです。
 ですから、元の男女の特性を是認するという意味での男女共同参画であれば、私はこれは推し進めていくべきだと思います。もとより、女性差別はあってはならないことです。しかし、男女を区別すべきものと、区別してはならないものがあるわけです。
 例えば、お話があった男女混合名簿は、確かに今のところは名簿の段階に収まっております。男女を区別しないということで名簿の段階に収まっております。これが、ロッカーを男女混合にする、身体検査を男女混合にする、修学旅行の寝室を男女混合にしていると、そういった事例が私の耳には次々に入ってくるわけです。
 こういった事例をほっておくわけにはいかないわけですね。その第一歩として男女混合名簿が位置付けられているという認識に私は立っております。また、日教組も、そういうふうな位置付けをしているかと思います。

○黒岩宇洋君 そういう話がそんなに伝わっているというのは、私はちょっと信じられないんです。
 ジェンダーフリーについて、ちょっと余りもう時間ないんで突き詰められませんけれども、いわゆる社会的性差なんですよね。もちろん、肉体的、生理的性差はあるのは当然ですし、ジェンダーフリーそのものも男女の特性を認めているわけですよ。ですから、それを背景にした男女共同参画社会というのは、私は八木先生もお認めになるべきだと思います。というのは、先ほどの前段部分はちょっと認識が違いますから。
 このことはちょっと時間ないんで突き詰められないんですけれども、先ほどのちょっと八木先生の発言の中で、要は、婚外子と、嫡出子、非嫡出子の問題ですね、婚外子の問題で。法的には民法九百条、ここによる要するに嫡出子、非嫡出子の相続権の問題があるだけだと。
 私、これ、あげつらうつもりはないんですけれども、戸籍法の四十九条、ここ、出生届出で、嫡出子と非嫡出子のこれ記入、より分けるようにこれ強制されているんですよね。これ書かないことには受理されないんですよ、特別の自治体を除いては。これ父という欄がありまして、これ名前も記入するところあるんですけれども、これ名前記入しちゃいけないんですね、婚外子の場合は。書くとこれ、あれなんですよ、受理されないんですよ。このことによって、この子供たちは長男とか長女という記載がないんです。女、男というだけなんです。このことによって、最終的に、非常に職業選択等でも差別を受ける。
 私は言いたいのは、法的に差別されていなければいいということではなく、憲法学者の先生でいらっしゃいますから、要は、社会的、事実的差別というものをどう取り除くかというのが私は法の精神だと思うんですが、この点についていかがでしょうか。

○参考人(八木秀次君) これは、ほかの方、ほかの先生方の御質問に対する答えでも言いましたけれども、社会的な差別については、これは是正する方向で私も考えるべきだと思っております。
 ただ、その非嫡出子の問題については、これは婚姻制度を保護するというのが立法趣旨ですから、この婚姻制度に毀損がない程度の婚外子の、あるいは非嫡出子のその差別の是正ということを我々は検討すべきだと思うんですね。
 そこのところがいまだ決着が付いておりません。私としてもまだその辺のところはその結論を出しておりません。

○黒岩宇洋君 これ、やっぱりニュアンスの問題なんですよね。
 確かに、先ほどの参考人の言葉の中にも、社会的差別にはそれは取り除くとあるんですけれども、これさらっと付け加えるだけで、どうしても法的な部分というのを非常にボリュームたっぷりに言うわけですよ。だから、そこら辺が、やっぱりその肌合いというものを、我々、今この現場にいるわけですから感じているわけですね。
 ここもこれで打ち切りますけれども、八木参考人のいわゆるこれ、「諸君」の中でもこれ、家族を尊重とか家族の価値を再認識という表現あります。
 八木参考人の考える理想の家族像というのは一体どんなものでしょうか。

○参考人(八木秀次君) これも世界観がぶつかっている問題だというように認識しておりますけれども、私は、やはり家族のその基本形態というものを法は想定すべきだと考えるわけです。それ以外のものについては、それ以外の形態について、家族の基本形態というのは、現行法も取っている、両親とその下に生まれてきたその子供から成る近代的な小家族、いわゆる核家族、これをその家族の基本形態とすべきだと思うんです。
 ただ、そこから外れるものが、外れる形態がもちろん出てきます。それについては別途、配慮するということでいいのだと思うんですね。そうでなければ、何もかもその家族というものの中に入れて家族を総体化するということになりますと、我が国の法制度の根幹にあるその基本的な家族像というものを否定することにつながりかねません。
 そこで、やはりその家族の基本像、基本形態というものをしっかりと打ち出しておく必要があると考えます。

○黒岩宇洋君 今回のこの法案の質疑の中で、先ほど呉越同舟とおっしゃいましたけれども、各党の方々でも、今、八木参考人がおっしゃったような意見は私は一度も聞きませんでした。いわゆる標準家族とか基本家族といった概念はあるかという質問に対して、そんなものはないんだと。要は、片方の親御さんだけの家庭だろうが、そして事実婚であろうが、結婚していなくても子供を産むといった、こういったこともすべて一つの選択としては認め合いましょうよという、これが私はこの今、少子化対策基本法案で、我々多くの議員や、そして提案者も認識、一致している認識だと思うんですけれども、いかがですか。

○参考人(八木秀次君) 私は、この少子化社会対策基本法案のその立法の目的が子供を増やすことにあるのか、あるいは別の社会構造に変えていくことに目的があるのか、そこがつかみ切れていないわけです。それが呉越同舟と言ったゆえんで、混在していると考えるわけですね。
 それで、何を言おうと思ったんでしたかね、家族の形態に関しては、これは少子化社会対策基本法案についての意見を私は今述べたわけではなくして、民法を含む様々なそれ以外の法制度についての意見を今述べているわけです。家族の基本形態というのは、そういった文脈の中でとらえていただければと思います。本法案についての考え方ではありません。

○黒岩宇洋君 もう時間ないんで、ちょっとお三方には質問できずに大変恐縮なんですが、私、ちょっと確認のために申し上げますけれども、これ、晩婚化、未婚化、要するに、が進んでいるということが少子化の原因ではないという認識にこれ立っているんですよね。そうではないと。晩婚だけではないんだ、要するに未婚だけじゃないんだと。要は、結婚していても産みたいと思う数と現実に産む数との乖離があるという。ですから、この法案の一義的な目的は、産みたいと思った人たちに産める社会環境を整えると。その結果として少子化が防がれるのならいいということ。ですから、子供を増やそうということも一義的な目的ではないんです、と私どもは認識しております。これはまあ附則として付け加えさしていただいて終わりますけれども。
 今日の、ちょっとやっぱり議論していて思ったんですけれども、呉越同舟、私、やっぱり呉と越は別々の舟に乗っている方がいいのかなという気がしました。私自身も、今日の参考人質疑で、この舟にはちょっと乗るのよそうかなと、その感想を付け加えて、終わらせていただきます。
 どうもありがとうございました。

○委員長(小川敏夫君) 以上で参考人に対する質疑は終了いたしました。
 この際、一言御礼を申し上げます。
 参考人の皆様におかれましては、大変御多忙な中、貴重な御意見をお述べいただきまして誠にありがとうございました。委員会を代表して厚く御礼申し上げます。
 本日はこれにて散会いたします。
   午後零時三十二分散会