156-衆-憲法調査会基本的人権の…-2号 平成15年03月13日

平成十五年三月十三日(木曜日)
    午後二時四十六分開議
 出席小委員
   小委員長 大出  彰君
      倉田 雅年君    谷本 龍哉君
      長勢 甚遠君    野田 聖子君
      野田  毅君    葉梨 信行君
      平林 鴻三君    小林 憲司君
      今野  東君    水島 広子君
      太田 昭宏君    武山百合子君
      春名 直章君    金子 哲夫君
      井上 喜一君
    …………………………………
   憲法調査会会長      中山 太郎君
   憲法調査会会長代理    仙谷 由人君
   参考人
   (東京大学教授)     菅野 和夫君
   参考人
   (内閣府情報公開審査会委
   員)
   (元労働省女性局長)   藤井 龍子君
   衆議院憲法調査会事務局長 内田 正文君
    ―――――――――――――
三月十三日
 小委員北川れん子君同日小委員辞任につき、その補欠として金子哲夫君が会長の指名で小委員に選任された。
同日
 小委員金子哲夫君同日小委員辞任につき、その補欠として北川れん子君が会長の指名で小委員に選任された。
    ―――――――――――――
本日の会議に付した案件
 基本的人権の保障に関する件(労働基本権)

     ――――◇―――――

○大出小委員長 これより会議を開きます。
 基本的人権の保障に関する件、特に労働基本権について調査を進めます。
 本日は、参考人として東京大学教授菅野和夫君及び内閣府情報公開審査会委員・元労働省女性局長藤井龍子君に御出席をいただいております。
 この際、両参考人に一言ごあいさつを申し上げます。
 本日は、御多用中にもかかわらず御出席をいただきまして、まことにありがとうございます。参考人のそれぞれのお立場から忌憚のない御意見をお述べいただき、調査の参考にいたしたいと存じます。
 本日の議事の順序について申し上げます。
 労働基本権について、まず、菅野参考人には公務員制度改革の視点から、藤井参考人には男女共同参画の視点から、それぞれ三十分以内で御意見をお述べいただき、その後、小委員からの質疑に対しお答え願いたいと存じます。
 なお、発言する際はその都度小委員長の許可を得ることとなっております。また、参考人は小委員に対し質疑することはできないことになっておりますので、あらかじめ御承知おき願いたいと存じます。
 御発言は着席のままでお願いいたします。
 それでは、まず菅野参考人からお願いいたします。

○菅野参考人 御紹介いただきました菅野でございます。
 本日は、憲法調査会の小委員会にお招きいただきまして、まことに光栄に存じております。私に与えられた議題は、公務員の労働基本権を公務員制度改革の視点から論ずるということであると理解しております。
 現在、公務員制度改革は国政上の重要な課題の一つとして論議されているわけでございますが、これは立法政策上の問題であるとともに、そこに憲法問題が絡んでいるという大変難しいものであると理解しております。
 労働基本権といいますか、憲法問題という観点から申しますと、公務員制度改革における労働基本権、労使関係制度と言いかえてよかろうかと思いますが、これをどのように構築するかは、憲法論的に言いますと、憲法二十八条の労働三権という言葉によって表現された団体交渉原理と、これに対する議会制民主主義、財政民主主義、あるいは公務員を選定するのは国民固有の権利であるという憲法十五条の原理、そういう対立する原理の相克調整の問題であるということになろうかと思います。
 立法政策として公務員制度における労使関係制度をどのようにしていくべきかを考える上では、私は、やはり現在の公務員制度の中における労働基本権制限の枠組みの成立過程というものが、現在においても関連性を有していると考えておりますので、話をそこから進めさせていただきたいと思います。
 と申しますのは、団体交渉原理を公務員制度に適用した場合に生じ得る法的、実際的問題点が戦後直後の社会経済状況の中で実験的に明らかにされたというふうに考えております。そこにおける使用者としての政府と労働組合との対立関係から生ずる問題、それが団体交渉原理の適用をめぐっていろいろな形であらわれ、また、国民生活への影響もそこにおいて見られたということであります。
 ただ、これは、時間が極めて限られておりますので、大変僣越ではございますが、私のつたない論文のその関係箇所を配付させていただきまして、それをごらんいただきたいというふうに考えた次第であります。
 ここでは、レジュメに書きましたように、敗戦後の団体交渉原理の適用時代があったということを申し上げ、それは昭和二十年制定の旧労働組合法の制定とその公務員への適用という形で行われた。それで、国民生活と公務員における団体交渉原理との調整は、労働関係調整法の規定によって一定の公務員の争議行為を禁止するという形で行われたということ。そういう労働組合法の全面適用のもとで、戦後の政治的、経済的混乱を背景に公務員の労働攻勢があって、それで社会的、経済的ないろいろな問題があったということを申し上げておくにとどめます。
 昭和二十三年に、御存じのマッカーサー書簡が七月二十二日に発せられ、政令二百一号が制定されて、二十三年の十二月三日に国家公務員法の大改正によって、現在の団体交渉原理を否定した国家公務員法あるいは地方公務員法、そして当時の公共企業体等労働関係法等々が成立した。公共部門の労使関係制度が団体交渉原理を否定したり、あるいは、現業部門においては争議行為を全面的に禁止するという体制に変わったということであります。
 その後、ILO八十七号条約の批准をめぐって、ILOの結社の自由委員会において累次の申し立てがなされ、累次の報告がなされて、昭和四十年のドライヤー報告がそのILOにおける日本関係案件の総決算としてなされました。その後、昭和四十年に批准案件が成立した。それによってかなり重要な改正がなされましたが、現在の公務員制度における労使関係に関連した部分はこれによってほぼ固まって、今日に至っていると理解してよかろうかと思います。
 それで、この時代に現在と関連しているという点で有用な示唆は、団体交渉原理を公務員に全面的に適用した場合には、いろいろな手当てをしておかないといろいろな問題が起こる、そういう教訓とともに、この団体交渉原理を否定するに至った思想といいますか考え方は、昭和二十三年のマッカーサー書簡に発するわけですが、これは、アメリカにおいて主権理論と言われる、公務員の使用者は政府ではなくて主権者たる国民自身である、公務員の勤務条件は国民の代表者たる議会で決定さるべきであって、政府には本来、決定権がない、政府との間において団体交渉はあり得ないという考え方から発したという点が一つ重要だと思います。
 もう一つは、昭和四十年におけるドライヤー報告においてILOの結社の自由委員会の考え方がいろいろ出されましたが、これはそれとは違った考え方に基づいておりまして、このドライヤー報告の考え方がその後の判例理論や立法政策へかなり重要な影響を与えたという点でも、現在と関連があると見ております。
 これが1の部分でありますが、レジュメの2に移らせていただきます。
 また、現時点で今後の公務員制度を論じる上で、我が国の最高裁の判例においてなされた大がかりな議論といいますか憲法論がやはり重要な影響を与えていますし、関連性があると考えまして、これをレジュメの2の部分においてさっと列挙したわけでございます。
 大まかに言いますと、公務員の労使関係制度の構築については、二つの対立的な考え方があろうかと思うわけであります。
 最高裁の公務員の争議行為の禁止規定の合憲性という問題をめぐって、この二つの考え方が相争って、現在では一方の考え方が勝っている、そういう状況にあろうかと思いますが、この二つの考え方が、今日での公務員の労使関係制度を立法政策として考える上でも関連があると思っている次第であります。
 まず、(1)の部分でございますが、団体交渉原理を否定し、争議行為を全面的に禁止する現行の公務員法制が成立した後には、公務員のそのような労働基本権の制限が憲法二十八条に合致しているのかという問題が当然に生じたのは御承知のとおりであります。
 これについての判例の動揺がまず見られたわけでして、当初は、昭和二十八年の国鉄弘前機関区事件と言われる事件の最高裁大法廷判決において、全体の奉仕者とか公共の福祉というかなり大まかな抽象的概念によって、その合憲性の肯定が行われたわけでありますが、それでは不十分であるという批判が出されてさまざまな議論が行われ、また、当時のILOでの議論あるいは労働運動の高揚、特に春闘における公共部門労組の重要な役割というようなことを背景にして、判例が変わっていったわけであります。
 御存じのように、昭和四十一年の東京中郵事件の大法廷判決から、昭和四十四年の四月二日の都教組、全司法仙台高裁という二つの事件の判決によって、現在とは大変に異なる一つの考え方が展開されたのであります。
 それは、レジュメにありますように、ごく簡単に言えば、公務員の労働基本権の制限については、その制限の原理は、憲法二十八条に内在する国民生活全体の利益の保障である、このような見地から、職務の公共性に応じた制限を受けるのは合憲である、こういう考え方であります。また、制限はそのような見地からのみ許されるのであって、必要最小限にとどめるべきである、しかも、制限する場合は代償措置を設けるべきである、こういうふうな考え方をこの三つの大法廷判決は打ち出しまして、それを下級審がさらに拡大して、争議行為関係禁止の規定の限定解釈が思い切って行われた、いわゆる三重絞りと言われますが、そのような限定解釈が行われた時代があったわけであります。
 このような状態は法的安定性を著しく損なう、そして解釈の間において統一性がとれていないということから、その後、最高裁の判例変更がなされたというのも御存じのとおりでありまして、昭和四十八年の四月二十五日の全農林警職法事件と言われる大法廷判決から、昭和五十一年の岩手県教組事件判決、昭和五十二年の名古屋中央郵便局事件判決へと続いたわけであります。
 ここにおいてとられた考え方は非常に違った考え方、先ほど申した二つの考え方のもう一つの方であります。まず、使用者は国民全体であるという公務員の地位の特殊性、マッカーサー書簡でとられた、アメリカで主権理論と呼ばれている考え方を発展させたものであります。また、議会制民主主義、財政民主主義によって公務員の労働基本権は当然に制約されている、そして、公共部門においては市場の抑制力が欠けているという点でも、団体交渉原理は適切ではないというふうな考え方をとって、限定解釈は不要、不適切であるとしたわけであります。
 このような最高裁の考え方の変更による新判例は、その後、下級審において定着いたしまして、最高裁においても幾つかの判例で踏襲が行われて、法的安定性が回復されて現在に至っているわけであります。
 その後、問題は、労働基本権制限については立法政策論議に移って、御存じのように、国鉄等三公社のスト権問題を経て、三公社の民営化という形での決着がなされたというふうに言ってよかろうかと思います。他方、非現業の公務員、国家公務員、地方公務員については、本格的な論議がその後ないままに今日まで推移してきたと言ってよかろうかと思います。
 このような意味で、昭和四十八年の最高裁の判例変更、全農林警職法事件でとった公務員の労働基本権に関する理論というのは大変に大きな影響を与えたわけでして、立法政策上もいわばその論議をそのような考え方で安定させたと言ってよいのではないかと思われます。
 この判例の一つの功績は、私は、憲法理論でいえば、公務員の労働基本権については、憲法二十八条の団体交渉原理による割り切り、団体交渉原理についてどのような内在的制約があるかと。つまり、憲法二十八条の中で完結して考えるというのではなくて、憲法上、団体交渉原理と対立した諸原理があって、それによって憲法二十八条の権利は相対化して弾力化せざるを得ないことを明らかにしたというようなことではないかと思われます。
 ただ、最高裁は、名古屋中郵の昭和五十二年の判決では、私の見るところ、昭和四十八年の判決よりもさらにこの憲法二十八条に対する制約原理の方の考え方を拡大し強化する考え方を打ち出して、公務員については団体交渉原理はそもそも保障されていないというふうな言い方をしている。公務員について団体交渉を制度として認めるかは、専ら国会の立法政策の問題であって、憲法上の要請ではない、こういう言い方に変わったというか、修正が行われたのではないかというふうに私は見ております。
 とにかく、これまでの公務員の労使関係制度あるいは労働基本権問題についての経緯というのが、今日において公務員制度改革における労働基本権関係の制度あるいは労使関係制度を議論する上で影響を持ってきているのではないか、あるいは関連性を持ってきているのではないかというふうに見ているわけであります。
 きょうの本題と思われます今回の公務員制度改革を労働基本権との関連で若干私なりに述べさせていただきたいと思います。それがレジュメの3でございます。
 忘れないうちにこのレジュメの中でミスプリを一つ訂正させていただきます。(2)の五つ目の黒ポツの「「大綱」(平成十四年十二月)」になっていますが、これは十三年の間違いでございます。大変失礼いたしました。十三年に訂正していただきたいと存じます。
 今回の公務員制度改革は、五十数年ぶりの公務員制度の大改革と言われているわけでして、いわば二十一世紀日本にふさわしい新たな行政システムを構築するというふうなスローガンのもとに、そのような観点でのさまざまな行政改革の一つの重要な柱として論議され、構想され、上程されようとしているものと理解をしております。
 この公務員制度改革においては、特に、人事制度を大幅に変えるということが主とされている。従来の職階制そのものは実現されてはおりませんが、職務による任用と給与の制度が、実際には年次主義による処遇と管理の制度になったということで、能力、職責、業績というのをキーワードにして新たな処遇、人事制度を構築しようとしているというふうに理解しております。
 このような大きな人事制度の改革を伴う、あるいは意図する公務員制度改革でありますが、その割にはと申すと失礼かもしれませんが、公務員の労働基本権あるいは労使関係制度については、どうも検討の先送りがなされてきたように外から見ると観察されるのであります。公務員制度を全体的に改革するという場合においては、労使関係制度をどのようにするかは重要な問題のはずでございます。
 この事務局の方でおつくりになった配付資料の中の検討の経緯の中で少し書いてあります、公務員制度調査会というのがどこかにあったと思いますが、実は、私はそこに参加させていただいて議論をしてきて、そこから今回の公務員制度改革の諸提案を拝見していたわけですが、平成十三年の三月だったかと思いますけれども、いわゆる大枠というのが出されました。それにおいても、労働基本権の問題は今後検討するというふうになっていたかと思います。それから、六月においてさらに基本設計というものが提示されたと記憶しておりますが、ここにおいても労働基本権の問題は今後、検討するというふうになっていたと記憶しております。
 平成十三年の十二月において、いわゆる大綱、配付資料の公務員制度改革大綱が閣議決定されました。これは非常に野心的な、私も公務員制度調査会においてかなりそのような議論をさせていただいたと覚えているんですが、前向きの人事制度改革を提案されておられますが、この労使関係制度については、現行の制度を基本的に維持するという立場をとっておられるように見受けられます。ただ、新聞論調などには、各主任大臣の人事管理権の強化とか能力、業績主義に対応した労使関係制度をどうするのかというような問いかけがありますが、私も、大綱を拝見した限りでは、そのような点についての答えがなされていないように見受けている次第であります。
 このような経緯の中で、御存じのように、平成十四年の十一月に、ILO結社の自由委員会が中間報告を出したのは新聞等で報道され、先生方、直接よく御存じのことと存じます。平成十四年の二月の連合の申し立て、その後の他の団体の申し立て等に端を発した報告であります。
 私、これを拝見して、さまざまな点でILO自体が少し言い過ぎているのではないかとか書き過ぎているのではないか、これまでのILOにおける論議の経緯というものを必ずしも踏まえていないというふうな印象を持っております。しかし、中間報告として出されたということは、そこにおいての一定のメッセージを読み取っての対応ということが要請されているのではないかというふうに思っております。
 それを私なりに考えてみたわけでありますが、私の見るところ、公務員労使関係に関するILOの基本思想というのは、まず、政府、労使団体、政労使による協議、対話を要請するという基本思想、十分なる協議、対話を要請する。したがって、大きな制度改革についても制度の改革に関する協議や対話を要請するという基本思想、それが一つあろうかと思います。
 私の見るところ、ILOの考え方というのは、労使関係についてのアメリカの考え方とヨーロッパ大陸の考え方というのが違っている中で、かなりヨーロッパ的な考え方、つまり、ヨーロッパのコーポラティズムと呼ばれる全国的なレベルにおける政労使の対話、協議の体制を背景としているように私は理解しております。
 それからもう一つは、公務員についても民間の労使関係と同様の労使関係的アプローチをとっているのではないかというふうに私は見ております。つまりは公共部門の特殊性をどこに見るかですが、最高裁の判例の考え方でいえば、東京中郵事件の考え方、国民生活への影響という意味での職務の公共性に主たる特殊性を見出す、こういう考え方であります。
 実は、この考え方はレジュメの1の(3)に書きましたドライヤー報告の考え方であります。ドライヤー報告は、公共部門における争議行為の制限については、国民生活に不可欠な業務とそうでない業務を区別して、不可欠でない業務についてはできるだけ争議権を認める方向に行くべきであるという考え方をとっていたわけです。
 また、ストライキ権を否定するという場合には、ストライキ権なしの団体交渉について第三者機関による適切な交渉行き詰まりの打開の、解決の装置を設けるべきであるというふうに言って、それを代償措置と呼んだわけです。つまりは、ストライキ権否定の場合には代償措置を、こういう考え方をとったわけでして、私は、これが東京中郵事件の大法廷判決に承継されたのではないかというふうに実は見ております。このような考え方が、いわば今でもILOにおいてとられているというふうに見ているわけであります。
 そのように基本思想を理解しますと、今回の中間報告の最大のメッセージは、やはりこの公務員制度改革に関して、労使関係制度をどうするかについて関係団体との協議を強く呼びかけていることだというふうに理解されるのであります。現に中間報告の文言も、たしかここのところは特に強調するという言葉になっていたかと思います。
 その次のメッセージは、この大改革に見合う労使関係制度の基本的な再検討があってしかるべきではないかということではないかと思います。それを、いろいろな点についてILOの諸条約と抵触するというような言い方をしている。それは書き過ぎである点がかなりあると思いますが、要は、五十数年ぶりと言われる公務員制度の改革を考える以上は、これまでILOでもかなり多くの点において議論されてきた公務員の労使関係制度についても、基本的な再検討をした上でこの公務員制度改革の全体的な結論を出してしかるべきではないか、そういうメッセージではないかというふうな気がするわけです。
 実は、ILOにおいて政府の行った答弁を見ますと、全農林判決の、地位の特殊性、財政民主主義論の見地から、いわば現在の公務員の労使関係制度をディフェンドしているというふうに見られるわけですが、先ほど言ったようなILOの基本的立場からは、説得力がILOにおいては少ないのかなというふうに私は見ております。
 もう時間が尽きてきましたので、最後に、私は、この公務員労使関係制度について確たる改革の案を持ち合わせているものではございません。公務員制度調査会の中でこの関係での検討に参加させていただいた中での実感を申し上げて、最後の結論とさせていただきたいわけです。
 それは、公務員労使関係制度を考える難しさでありまして、多数の法的論点が複雑に相互に絡み合っています。
 例えば、交渉制度については、国会の議決権あるいは公務員制度そのものと労使関係制度をどのように調整するか。完全な団体交渉原理の貫徹はあり得ない、交渉というものについては何らかの形で制約を設けざるを得ないとした場合の紛争解決、あるいは交渉行き詰まりの解決の手続をどうするか、いわゆる代償措置の内容をどのように設定するか。
 それから、もう一つの難しさは、制度論と運用論が複雑に絡み合う関係にあるということであります。
 典型は労使コミュニケーションというふうに書きましたが、例えば、交渉制度そのものを考えても、制度を変えなくても運用を変えればかなりいろいろなことができますし、また、制度を変えても運用をどうするかを考えないと、実際の制度は定まりません。
 そして三点目は、ILOではございませんが、やはり広く意見を徴する必要性があるのではないか。労使関係制度の問題は、特に、結果も重要ですが、プロセスにおいて関係団体等が議論を尽くして、それで最後はえいやと割り切るほかないわけですが、そこに至るまでの議論を相当にやったということが大変に重要であるというふうに考えております。そういう意味でのプロセスの重要性が私が感じている一つの点であります。
 以上でございます。(拍手)

○大出小委員長 ありがとうございました。
 次に、藤井参考人、お願いいたします。

○藤井参考人 本日は、こういう機会を設けていただきまして、大変ありがとうございます。ただ、私、今の菅野先生のように法学の方を研究しているものでも何でもございません。とうとうとお述べすることはできない、かつ、今携わっております情報公開審査会の方の仕事がこのところ多忙をきわめておりまして、ちょっと準備不足の点もあるかと思います。お聞きづらいところがあるかと思いますが、御容赦いただきたいと存じます。
 二年前まで旧労働省で女性局長をやっておりましたので、そのときの経験、それから日ごろ個人的に思っておりますことも含めまして御説明を申し上げたいと思います。
 レジュメの最初のところに書いてございますように、まず憲法の評価といたしましては、雇用の場における女性の地位の向上に大変大きな影響を与えたと申してよろしいかと思います。御承知のとおり、戦前は、女性には参政権が与えられず結婚も戸主の許可が必要というふうに、法律上独立した人格ではなかったわけでございますので、憲法十四条あるいは二十四条で男性と対等な法律的位置づけを与えられたということは、当時の女性にとっては目もくらむような福音だったのではないかと思います。
 それでは、それが戦後五十数年を経てどういう形で今日実現しているかということについて御紹介をしたいと思います。
 昭和二十二年、労働基準法が制定されまして、その第四条に男女同一賃金の原則がうたわれました。これは、憲法を具体化するための施策の一つと申し上げてよろしいと思います。
 あわせて、二十二年に新設されました労働省に婦人の地位向上を図るための組織として婦人少年局という新しい局が設置されました。初代局長は山川菊栄、以来、一人を除いて女性が務めておりまして、私は十二代目で、最後の女性局長でございました。あわせて、四十七都道府県に室というのを設けまして、全国的に女性の地位向上のための啓蒙啓発活動に励んだわけでございます。
 しかしながら、戦前が先ほど御紹介したような状態であったわけでございますので、憲法あるいは法律の条文ができたからといって実態がそんなに急激に変わるものではなく、婦人少年局及び地方の婦人少年室の職員のこの間の悪戦苦闘ぶりというのは大変なものがあったようでございます。
 ただ、昭和三十年代ごろになりますと、戦後強くなったのは女と靴下という言葉が言われたようでございまして、婦人少年局はもう必要ないんではないかというような声がほうはいと起きてきていた。したがって、行政改革、一省一局削減のたびにこの婦人少年局が削減の対象になっておった、それを何とか婦人団体の外圧で食いとめたというようなことを、私は先輩局長から耳にたこができるほど聞かされたことがございます。そういうことで、昭和三十年代、昭和四十年代というのは、なかなか雇用における男女平等論議が進まなかった時代だと申し上げてよろしいと思います。
 大きな契機となったのは、国連が定めました国際婦人年、一九七五年、昭和五十年でございます。国連がこの年を国際婦人年と定めまして、世界的規模で女性の地位向上のキャンペーンを行い、加盟各国にそのための施策の拡充を要請した、これが大変大きな契機になったわけでございます。
 その年、メキシコシティーで第一回の世界女性会議というのが開かれております。加盟各国から女性の代表の方々がお集まりになって、女性向上のために各国が取り組むべき行動計画のようなものが話し合われたわけでございます。
 我が国からこの代表団の一員として参加されました森山法務大臣、当時は婦人少年局長でございますが、お帰りになったときのエッセーに、男女平等という言葉がこの世界会議では当然のことのように語られているのに大変驚きを感じたというようなことを書かれております。すなわち、日本では男女平等ということを言えなかった時代であったということでございます。
 ただ、この会議から帰られまして、この会議でのいろいろな状況を踏まえて、この年初めて、国内で標語に男女平等という言葉を婦人少年局が使ったということもございます。
 その後、国連は、この動きを継続するために、一九七六年から八五年を婦人の十年ということに定めまして、その十年の中間年あたりで、一九七九年でございますが、あらゆる分野における女性に対する差別を撤廃するため、各国が施策を講じなければならないということを定めた女性差別撤廃条約を採択するわけでございます。これは資料の中に入っているかと思います。
 一九八五年に我が国はこれを批准しておりますが、この批准の条件は三つほどございましたが、雇用の場における男女平等を法制的に整備すること、それから、国籍で男性女性平等にすること、子供の国籍取得でございます。それから、高校における家庭科の教科が当時女性だけが必須になっていたものを改正することといったような三つがございましたが、そのうちの一つの雇用の場における平等の実現のために、男女雇用機会均等法の制定に向けて準備が進められたわけでございます。
 その中で、最大の議論、法律上の議論となったのが保護か平等かという問題でございます。
 昭和二十二年に制定されました労働基準法には、残業については、女性は一定以上の残業をさせてはいけないという制限、あるいは深夜勤務は原則として禁止といったような保護規定が設けられていたわけでございます。この保護規定と雇用の場における平等をどういうふうに調整するか、調和させるかということが最大の議論になったわけでございます。
 これは、労使で意見が分かれ、女性の中でも意見が分かれた問題でございます。保護も平等もという立場の方は、こういう達成された高い労働条件であるわけであるから、男性もこの条件まで上げることによって平等を実現させるべきであるという御主張、片や、単に女性を一般的に弱者と見た合理性のない保護規定というのは廃止すべきである、かえって平等を実現する阻害要因になっているのではないかといったことで、学界を巻き込んでの大議論になりました。その結論というのが、本日レジュメの次に別紙としてつけてございますが、昭和五十九年に当時の婦人少年問題審議会から出されました建議に出てございます。
 平等か保護かという議論に決着をつけたものでございまして、ちょっと紹介いたしますと、「雇用における男女の機会の均等及び待遇の平等を確保するための立法措置を講ずるとともに、労働基準法の女子保護規定については女子が妊娠出産機能をもつことに係る母性保護規定を除き見直すことが必要である。」ということを明確に打ち出しております。以下、ただし、この検討に当たっては、「現状固定的な見地ではなく、長期的な展望の上に立って行うことが必要」であるが、ちょっと飛びまして、「しかしながら、法律の制定、改廃を行う場合には、その内容は将来を見通しつつも現状から遊離したものであってはならず、」というスタンス、姿勢を明確に打ち出しまして、最初の男女雇用機会均等法というものが成立したわけでございます。
 こういうふうに、「現状から遊離したものであってはならず、」という基本スタンスでございましたので、最初の均等法は内容的には不十分なところがあるという御指摘もいろいろなところからいただいたわけでございますが、一応この均等法は、雇用の場における男女が平等であるべきだということを理論的、法的に整理をした上で、法的な枠組み、社会的な規範として明確に打ち出したということで大変重要な法律であったかと思います。
 この基本的な枠組みを踏まえまして、以後、雇用の場においては各論の段階に入っていったと申し上げてよろしいと思います。
 各論といたしまして、そこに並べてございますように、育児休業法というのが平成三年に成立してございます。それから、パートタイム労働法というのが平成五年に成立しております。さらに、育児休業法を改正する形で介護休業法が制定されております。これが平成七年のことでございます。
 こういう個別法の制定を踏まえまして、男女雇用機会均等法、そして労働基準法の先ほど御紹介しました女子保護規定がほとんど全面的に解消されるという形の改正が行われました。これが平成九年のことでございます。
 こういった雇用の場における均等、男女平等というものの流れを受けましてと申し上げてよろしいと思うんですが、平成十一年に男女共同参画社会基本法が成立をしているわけでございます。これは、雇用の場のみならず、広く社会のあらゆる分野における活動に男女が共同で参画する機会が確保されるということを目指すものでございまして、先ほど御紹介した女性差別撤廃条約の趣旨を踏まえて制定されたものと申し上げてよろしいと思います。
 以上、五十数年の歴史をわずかの時間で御紹介するのも大変無理があったかと思いますが、昭和二十二年に憲法が掲げました理念の実現に、国会はもとより、行政あるいは国民の女性の方々がいろいろ努力してこられた結果が、五十数年を経てやっとここまでたどり着いているというのが私の率直な感想でございます。
 なお、女子差別撤廃条約に基づきまして、国連に女性差別撤廃委員会というのが設けられてございます。この委員会では、国別に条約の遵守状況の審査を行っております。本年七月は、日本が九年ぶりに審査の対象になっております。参画法の制定など、政府からのレポートには盛り込まれているようでございますが、委員会にはNGO等からもレポートが出されるということになっておりまして、それらをもとに国別の審査が行われ、国別にコメント、必要であれば勧告が出されるというふうになっていることを申し添えておきたいと思います。
 それでは、女性労働者の現状がどうであるかということについて、ここ一、二年、大変急激な変化といいますか、目覚ましい変化と申し上げてよろしいことがございますので、資料をもとに御紹介させていただきたいと思います。
 現在、雇用労働者の四割を女性が占めておりまして、高学歴化が急速に進んでおり、勤続年数も伸びているなど、基幹労働力化が進んでいるところでございます。
 資料は四枚目のところをごらんいただければと思います。「高学歴化の進展」ということで、二つ棒グラフを並べておりますが、下のグラフの方が新規学卒者の就職者の学歴構成でございます。
 昭和五十年ごろをごらんいただくと、女性の新規学卒者の六四・〇%が高卒で、四年生大学卒は八・五%という状況でございますが、下から二段目の平成十三年になりますと、高卒が三三・七%、短大卒が二六・六、そして四年生大学卒が三八・五%ということで、女性の新規学卒、学校を卒業して新しく就職する方々の学歴構成というのが極めて急速に高学歴化している、四年生大学卒が主流になっているというのをお見とりいただけるのではないかと思います。
 次の、「主要国の年齢階級別労働力率」のところでございますが、女性の労働力率の形をごらんいただくためにこの表をお示ししてございますが、二つのことを申し上げたいと思います。
 一つは、女性の労働力率、年齢別に労働力率を見たグラフというのが、相変わらずM字型を描いているということでございます。一番上が男性の労働力率のグラフ、二番目が一九九七年、そして一番下がその約二十年前の一九七五年でございます。アメリカ、スウェーデン、ドイツ、フランス、ノルウェーとお示ししてございます。これらと比較いたしますと、相変わらず、二十年たってもM字型、他の諸外国がほとんどM字型から山型に変わっているというのと、非常に特徴的な傾向を示しているかと思います。
 それからもう一つは、日本の場合は、男性の労働力率が九七%、九八%と極めて高く、女性の労働力率が六八%、七〇%という状態である。すなわち、相当格差があるというのに対し、アメリカ、スウェーデン、ドイツ、フランス、ノルウェー、いずれも、男女の労働力率の格差がそれほど大きくないという状況。この二つが特徴として申し上げられると思います。
 次のページで特徴を申し上げたいと思いますが、そういう中で、男女を問わず、全体として就業形態が多様化していると言われておりますが、とりわけ女性の就業形態の多様化が進んでいるということを申し上げたいと思います。
 これは、産業別に見ておりますが、特に、卸、小売、飲食店等をごらんいただきますと、女性のパート労働者の割合が極めて高い。また、契約社員あるいは臨時的雇用者あるいは派遣労働者というものも、男性に比べますと相対的に多いということがごらんいただけると思います。しかも、その傾向は、平成六年と平成十一年を比較してございますが、最近強まっているということが、この図からごらんいただけるのではないかと思います。
 さらに、女性のライフサイクルといいますか、ライフスタイルの多様化も進んでおるということを申し上げてよろしいと思います。
 晩婚化の傾向あるいは未婚率の上昇が顕著であるということで、専業主婦の割合というのがどういうふうになっているかという図をつけさせていただいております。これは、雇用労働者、サラリーマンの世帯で、奥様が、妻が専業主婦の世帯の割合と、何らかの形で働いている世帯の割合を見たものでございますが、一九九五年までは専業主婦世帯の方が、すなわち、片働き世帯の方が上回っておりましたのが、二〇〇〇年の国勢調査では、共働き世帯が片働き世帯を上回っているというような形になっておりまして、ここ数年で大きく女性の働き方、あるいはライフスタイルが変わっているということ。こういうことを念頭に置いて女性労働対策というようなものも考えていかなければいけないのではないかということで、既に皆様よく御承知のところかとは存じましたが、あえて御紹介をさせていただいたわけでございます。
 今申し上げましたように、高学歴化が進み、意欲、能力も高い女性が労働市場に出てきている、かつ未婚の女性もふえてきているという中で、それでは、企業における、雇用の場における男女平等、均等というのはどうなっているかということでございますが、残念ながら、女子大生の採用差別の例というのは大変多く聞かれるところでございますし、昇進差別等々もまだまだなくならないという状況ではないかと思います。
 そういう中で、女性の大卒の優秀な方々が外資系企業あるいは外国へ就職をされていくといったようなことがあるわけでございまして、我が国企業の国際競争力という観点からしても、もったいないといいますか、せっかく優秀な女性の能力を国内企業で活用して国際競争力をつけるという観点からも、必要なことではないか。そういう点からも、雇用環境の整備というのが非常に必要ではないかと思っております。
 そういう問題をとらえまして、男女共同参画という視点から、憲法的なことを何か申し上げられるかなと思いまして、十四条や二十七条を頭に置きまして、提言と申しますか、申し上げられることを、三つほどここに掲げてございます。
 一つが、「救済措置の拡充」ということ。二つ目が、「再就職を希望する女性のための施策の拡充」ということ。それで三点目が、「育児・介護等との両立が容易となる環境の整備」ということでございます。
 第一点目の「救済措置の拡充」ということでございますが、これは、先ほど申し上げましたように、採用差別や昇進差別というのがかなりまだ見られる状況でございます。そういうものに対して、行政指導、行政が事業場へ行ってそういう違反を摘発して指導するということには限界があると申し上げてよろしいかと思います。
 例えば、昇進差別は長年の人事考課の結果であろうと思いますので、事業場を訪問して摘発できるという性格のものではないと思います。やはり、個人が自発的に申告をするという形等が望ましいかと思われるわけでございます。
 そういった観点からしますと、個人の申し立てなり、あるいは申し立てを受けて、もう少し強制的に事業主等に改善措置を講じさせるような救済措置の拡充というのが、男女雇用機会均等法あるいは男女共同参画社会基本法の趣旨を徹底するために必要かと思われるわけでございます。そこで、ここでは例えばということで、英国あるいは米国の例を踏まえまして、強制的な命令権限を有する救済機関の設置、あるいは個人にかわって差別案件について訴訟を代理して提起する機関の設置といったようなことを盛り込まさせていただいております。
 この考え方というのは、我が国の行政の特徴でございました、事前指導に重点を置いた事前指導型の行政から、自立自助型の個人を救済するという事後救済型の行政への重心の移動という我が国の方向にも沿っているのではないかと思っておるわけでございます。
 二点目が、「再就職を希望する女性のための施策の拡充」でございます。
 先ほど、M字型カーブが我が国の女性の働き方の特徴と申し上げましたように、いわゆる再就職型の働き方を選択する女性が多いのが現実でございます。しかも、女性のアンケート調査等を見ますと、三割前後の方々がやはりこういう形の働き方をしたいというふうに答えておられるという状況では、こういう再就職を希望する女性に、再就職の際に良好な雇用機会を提供する環境の整備が極めて重要なことであろうかと思われます。
 その際、フルタイムとして働く雇用機会を提供することはもちろん重要なことでございますが、家庭との両立ということを考えると、パートタイムで働きたいという方が多いのも現実でございますので、パートタイム労働対策の拡充というのはますます必要になってくるかと思います。その他、派遣等々多様な働き方、子育てが終わって再び働きたいと思っておられる女性の方々が自由に自分の意思で選択できるような環境の整備というものが必要かと思われます。そういった意味で、税制あるいは社会保険制度を含め、環境を整備することが必要であろうかと思われます。
 また、再就職したいという方々が三十五歳であったり四十歳であったり、大体子供の年齢によって左右されるようでございますが、いろいろでございます。ところが、再就職をしようというときに、多くの求人は三十五歳までとか三十八歳までというふうに年齢制限を設けているものが多いようでございますので、年齢制限の撤廃というか解消も必要かと思われます。よく、中高年の再就職に当たって年齢制限撤廃ということが指摘されるわけでございますけれども、子育て後に再就職をしたいと思っている女性の方のための年齢制限の撤廃というのも、どうぞ念頭に置いていただければと思うわけでございます。
 最後に、「育児・介護等との両立が容易となる環境の整備」について申し上げたいと思います。
 現在、男女の賃金格差は、縮小はしているというものの、大体男性の七割ぐらいのところが女性の賃金水準だというような調査結果も出ております。またポストの格差というのも出てございますが、こういった原因の多くが、育児や介護のために退職をする、そのために勤続期間が短い、あるいは家庭的負担が大きいためにどうしても出世できないといいますか、上の方のポストまで行けないといったようなこともあるようでございますので、少子化対策という観点からだけではなく、雇用の場における均等の実現という観点からも、育児、介護等と仕事の両立対策の拡充の必要性というのが非常に強まっていると申し上げたいと思います。
 これにつきましては、ありとあらゆることをやっていただいている状況であるのは間違いないと思いますが、その際、国、地方自治体を含め公共部門と企業と個人、家庭、この役割分担、責任分担をどうするのかということについて、これからの我が国社会のあり方というものをどういう形に持っていくか、それとの整合性、それから児童や高齢者の方々の人間としての尊厳の維持ということも踏まえながら、十分議論をして国民的コンセンサスづくりを行っていくということが必要な時代になっているのではないかと思うわけでございます。
 特に、限られた資源の中で何をどう実現していくかというのが今問われている時代かと思いますので、選択と集中といいますか、何を選択し、コスト、資源をどこに集中させるかということについて国民的なコンセンサスづくりというのが必要ではないかと思っているということを申し上げまして、終わりにさせていただきたいと思います。(拍手)

○大出小委員長 ありがとうございました。
 以上で両参考人の御意見の開陳は終わりました。
    ―――――――――――――

○大出小委員長 これより参考人に対する質疑を行います。
 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。野田毅君。

○野田(毅)小委員 お二人の参考人には、大変貴重な御意見をお聞かせいただきまして、まずはありがとうございました。
 限られた時間ですし、ここは憲法調査会ということでありまして、今お伺いいたしますと、現行の憲法の条項について何らか不備な点があるのかないのかということについては全然触れられていないで、むしろ現行憲法を前提にして、その先の政策をどうするかというような話に大体焦点が当たっていたというような感じがいたしております。
 そこで、お二人それぞれ、現在の憲法の条項について何ら問題はないのか、あるいは改善すべき点があるのかないのか、不備があるのかないのか、こうした方がよりよくなっていいというようなことがあるのかないのか、少しお聞かせをいただきたいということでございます。
 それから菅野参考人に一つお伺いしたいんですが、今日現在、公務員労働に関して、公務員の立場からの問題もさることながら、国民的関心事からいえば、行財政改革という角度からどう見るのかということが非常に大きなテーマではないか。行革ということを進めていく、これは国、地方を通じてでありますけれども、その際に、民間企業の方がはるかにいろいろな意味で合理化が進んでいっているにもかかわらず、むしろ、公務員の世界においては、言葉は悪いんだけれども、どちらかというと、その阻害要因になっている側面があるのではないかという角度からの議論もよくあることでありまして、その点についてお考えを聞かせていただきたい。
 特に、現在の規定の中で、民間労働者に比べて現実問題、公務員が不利になっている、だから強化しなければいけないというような現実があるのかないのかということを、ちょっと教えてほしいと思います。
 それから藤井参考人には、男女平等、雇用機会均等等々、そのとおりだと思うんですが、その中で、視点を変えてみると、実は家庭というものをこの憲法の中でどういうふうに位置づけていくのかということについて、率直に言って、何も女性にだけ家庭に関する責任を押しつけるという発想は全くありませんけれども、現在の憲法の中で、家族が助け合わなければいけないとかいうようなことが全然ない。二十六条で、義務教育に関して、ごく簡単に、「保護する子女」としか書いてない。だから、保護して当たり前という前提になっている。
 だけれども、憲法上は、保護しなければならないとか養育しなければならないとか、これは何も母親だけじゃなくて父親もそうですけれども、家族における、お互いが助け合うということが全然抜けてしまっているんじゃないか、その中で、自分の、お互いの個性だけ強調するような形でいって、本当に家族がこれでいいんだろうか、そういう角度からの憲法論議というのは出てこないんだろうか。
 児童に関していえば、労働関係で見ると、酷使してはならないという、まるで児童労働を、子供の労働を酷使しちゃいけないよということしか書いてないので、これまた、こんなことで本当にいいんだろうかというふうにも思うので、その辺を含めて、少しお話を聞かせていただきたいと思います。
 以上です。

○菅野参考人 ただいまの御質問についてですが、まず、現在の労働に関する憲法の諸規定について、憲法改正といいますか、改めるべき点があるのかどうかという点についてであります。
 現在の憲法の労働に関する規定は、私の見るところ、大変に体系的にできていまして、まず、勤労の権利と義務というものがございます。次いで、労働関係の基準を法定せよ、こういう規定。そして、団結権、団体交渉権、団体行動権という規定があります。これら、いずれも、大変に、いわば高らかに、理想というか理念、それから大きな政策目標を定めているというふうな意味で抽象的な規定でありまして、それは、言いかえますと、大変柔軟な、弾力的な規定でございます。これらの規定と、あとは他の憲法規定とを考慮して立法政策をやっていくという点で、立法政策を今後、時代の変化に合わせてやっていく上での障害というものもつくり出していないのではないかと思います。
 ただ、非常に世の中が変化している、戦後のあの時期につくられた憲法がそのままでよいのか、そういうような基本的なお問いかけと存じますが、戦後の憲法として見ますと、労働に関する三つの規定の前にある二十五条の生存権は、かなり戦後の特徴的な考え方でありまして、このあたりが、今、社会保障制度等の行き詰まりといいますか、根本的な再構築が問われている中で、社会的な平等といいますか、社会的にどのくらい平等を国の体制として憲法上保障すべきなのか、それとも、むしろ自由にすべきなのか、その辺が、この一連の規定の中では一番の課題ではないか。
 例えば、私がもし労働組合側の立場に立つならば、このあたりでさらに、これからどんどん社会的な不平等が進んでいくおそれがあるというので、それに歯どめをかける規定を入れるとか、片方では、そうじゃなくて、市場の自由というのを強調するなら、そのシステムを入れるとか、その辺が一つの論点ではないかと思っております。
 それから、現在の行財政の改革が進んで、そして大変に経済的にも厳しい状況が進んでいく中で、民間の労働関係、労使関係においては、いわゆるリストラあるいは合理化等が進んでいる、労働条件においても、あるいは雇用の安定においても、厳しい状況が進んでいる、それを踏まえて、公務員の労働関係の制度をどう考えるか、そういうお尋ねがあったかと理解いたしました。
 私は、今回の公務員制度改革の一つの背景といいますか、あるいはそれをもたらす理由としては、そのような労働市場とか労働を取り巻く環境の変化というのがあろうかと思います。民間ではいろいろ変わっている、公務員について変えなくてよいのか、そういうふうな問題意識も確かに入っていると思いますし、そのようなことが、例えば、能力、業績、職責ですかというのをキーワードにした人事管理制度にしていくとか、そういう中にも入っているのではないかと思います。
 公務員制度については、例えば、雇用の多様化とか労働市場における……

○大出小委員長 参考人、時間が限られておりますので、恐縮ですが、簡潔にお願いいたします。

○菅野参考人 申しわけございません。
 そういう点への対応というのが一つの課題かと思っております。

○藤井参考人 二つの御質問、一緒にお答えさせていただきたいと思います。
 私、憲法と男女共同参画ということについて勉強したのは実は今回が初めてのようなわけで、お恥ずかしい限りでございます。したがいまして、憲法の条文に不備な点はあるかとか、あるいはもっとこうしたらいいのではないかということについては、お答えできるほどの蓄積がございません。
 ただ、今御提案の、家族が助け合うといったような趣旨の条文はどうかという御質問でございますが、確かに、憲法を読みますと、そういうものはございません。ただ、家族が助け合うということは、もう当然のことだと思っております。
 二十四条は、婚姻というのは女性と男性の合意によってのみ成立すると書いてございまして、実は私ども、今の感覚で見ると、この条文というのが若干違和感があるのは確かでございます。なぜこういうような条文があえて設けられたかというと、やはり、先ほど御紹介しました、戦前の家制度の中で女性の人権が全く尊重されていなかったという状況を踏まえてこういう条文ができている、そういう歴史的な意味がある、そういう意味で読み取らなければいけないのではないかと考えたわけでございます。
 したがいまして、それから五十数年たって、今の時点で考えるとすると、家族が助け合うといったような趣旨を盛り込むというのは、家制度の復活というニュアンスがない状態であれば、そういう形であれば、ドイツの憲法等にもございますし、別に私は、構わないという表現はよくないかと思いますが、よろしいのではないかと思っております。
 ただ、ドイツ憲法の中にも、家族の部分につきましては、その他、非嫡出子の問題等々、いろいろ触れてございますので、あわせて御議論がなされるべき問題かと思っております。

○大出小委員長 時間ですので、次に、小林憲司君。

○小林(憲)小委員 民主党の小林憲司でございます。
 労働基本権につきまして、まずは菅野参考人にお伺いさせていただきたいと思います。
 これは、大変センシティブな問題も含みますし、大変難しい問題でございますので、私も、言葉には気をつけて、いろいろとお伺いさせていただきたいと思います。
 公務員の労働基本権につきましては、古くて新しい問題といいますが、実は、昨年七月の本小委員会におきましても取り上げられたところでございまして、連合の草野事務局長をお迎えして、私も意見を述べる機会をいただきました。
 憲法二十八条に規定する労働三権、団結権、団体交渉権、争議権が、公務員の場合、何らかの形で制限されており、その回復が悲願であるとの草野参考人の御主張は、十分理解できるところでありましたが、何分、昨今の厳しい労働情勢の中で、スト権によって自分たちの経済的地位を確立しようとしても、今はそうした環境ではないのではないか、そういう意見が、私が申し上げた基本にございます。決して私は、スト権が、もうそれは要らないんだということではなくて、ちょうど笹森会長、草野事務局長にかわられたところだったものですから、お二人とも、実はストライキは経験したことがないんだよというようなお話があったので、ああ、そうですかなんて話で、ちょっとイレギュラー発言がありました。
 その後、昨年十一月になって、日本も諸外国を見習って公務員の労働基本権の現行の制約を見直すべきとの勧告がILOから出されたとのことでございます。
 先ほど参考人から御指摘がありましたように、確かに、経済のグローバル化への適合を目標に、規制緩和を標榜し、会社制度や税制、会計制度などの経済活動にかかわるあらゆる制度の国際化を声高に叫ぶ日本政府が、公務員の労働基準だけは国内事情を主張するというのは無理があると思います。しかし、その一方で、公務員が民間企業の従業員と同様に労働三権の行使を認められてしかるべきかといえば、その置かれた立場から、おのずと違いがあるという考えもあると思います。
 ILOの勧告に従ってこれまでの国内事情を見直すにしても、各国の状況はそれぞれ区々であり、どの国をお手本にするのがよいのか、さらには、日本の人事院勧告制度という労働基本権制約の代償措置があるわけでありますから、それらも含めて国際的な平仄をとるならばどのようなあり方が展望できるのか、参考人の御意見をお伺いしたいと思います。
 続けてお伺いしますが、公務員の労働三権の制約の問題もさることながら、現在私たちが最も切実に問題にしなければならないのは、憲法二十七条の「すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。」の方ではないかと思うわけであります。今の現実の失業状態、三百五十七万人、完全失業率が五・五%という最悪の雇用状況のもとでは、これにどう対応するか、これこそ現実的な労働基本権の確保なのではないでしょうか。
 そうした意味では、労働基本権の問題は、実は経済問題と密接に絡んでいて、雇用のパイを広げていくしかないのではないかと思うわけであります。新しい産業をどう興していくか、それがすぐには難しいとなれば、労働者が仕事を分け合うワークシェアリングなどの導入が、憲法の保障する勤労の権利を実現する観点からも大きな意義を持つものだと思われますが、いかがでしょうか。
 続きまして、藤井参考人の質問もさせていただきますが、男女共同参画についてのお話を大変意義深く伺いましたし、私もこの資料を前もっていただきまして、読ませていただきました。
 男性が、二十代後半、五十代までを山とする台形を描くのに対しまして、女性の年齢別労働力率を見ると、相変わらずM字型カーブを描いています。出産、子育て、その職業をやめてからの、子育て一段落後に再就職するという、我が国の女性の働き方の特徴になっているということでありますが、このM字型カーブは日本だけの現象であるのでしょうか。各国はどのような状況か。
 私もアメリカで仕事をしておりましたが、例えば妊娠された女性でも、本当に臨月に近い状態まで仕事場で頑張ってこられている。そしてまた出産後はすぐに復帰してこられるだけのシステムが海外にはあったと思います。ですから、まさしくそうなりますと、男女の平等ということが、本当の意味で社会も支えていけるのではないかと思いますが、このことについてどう思われますでしょうか。
 昨年九月七日、内閣府が発表しました男女共同参画社会に関する世論調査によりますと、夫は外で働き、妻は家庭を守るべきだという考えの人が、五年前に比べまして一〇・八減の四七、一〇・八%減になっているということです。そう考えない人と同じ比率だったら、これはかなりやはり日本でも進んで、意識的なものが変わってきているという状況だと私は思いますが、先ほども意識のお話があった、掃除、洗濯、炊事などの家事を分担する比率はこの十年間で微増にとどまっておりまして、男女の役割に関する国民意識の変化に生活実態が追いついていっていないということも明らかになっておるのではないでしょうか。
 男女共同参画時代を迎え、意識の啓蒙も徐々に進んでいると思われますが、これを社会の実態により一層浸透させていくためには、今後どのような施策がより効果的であると藤井参考人は思われますか。ぜひともお伺いしたいと思います。
 これは蛇足でありますが、きょう私の先輩議員に聞きましたら、藤井参考人のことを大変よく御存じの議員の先生、先輩がいまして、大変アメリカではアクティブに御研究をなされていたと聞いております。ぜひとも日本における男女の平等、これは一日も早く、この日本の状況を救うのは女性の力だと私は思っておりますので、どうかその施策を、もしありましたら教えてください。お願いします。ありがとうございます。

○菅野参考人 公務員の労働基本権のあり方についての小林先生のおっしゃったことにはほとんど私賛成でございますし、そのような難しいものであると認識しております。
 要は、公務員の勤務条件決定制度について、勤労者としての公務員の利益に十分に配慮した制度をつくり上げる、そしてまた、実質的に公務員についても労使間の協議を十分に行う体制をつくり上げることだと思いまして、それについてのモデルの国があるというふうなことは考えておりません。我が国自身について、関係者がよく話し合って定める、そういう意味でプロセスが重要だと申し上げたわけです。

○藤井参考人 M字型カーブにつきましては、先ほど御紹介いたしましたグラフの中に、やはり二十年前は日本とよく似たようなM字型カーブ、例えばノルウェーとかドイツ、フランス等も描いておったわけでございます。それが約二十年後の一九九七年には山型のカーブになっているということで、この原因については、私も専門の研究をしたことがございませんので何とも申し上げられないんですが、一つは、短時間勤務形態というんでしょうか、これがかなり広く定着し、子育て中の女性の方々が、多くはそういうパート、パートというか、日本のパートとは違いますので、短時間労働という形態で仕事と子育てとを両立させてこられた。その結果、あのM字型カーブが解消したのではないかと思って見ているところでございます。
 それから、アメリカの場合は、実は大変、個人の責任ですべてを律するという国でございますので、日本のように出産の前後に休暇制度が法定されていたりというようなこともないという状況であるがゆえに、出産直前、それから直後に働くという、ある意味では日本の方が恵まれた状況であるかとは思います。
 ただ、サポート体制といたしましては、個人のベビーシッター制度などがかなり発達しているし、また、男性の主夫という形が結構普及しているようでございます。ダディー・アット・ザ・ホームとかと言うそうで、DATHとか言っていまして、全国で二百万人ぐらいの方がそういう連絡協議会を持っておられるというふうにも聞いておるわけでございます。
 それから、男性の家事分担の比率が低いことについてでございますが、対策としましては、何といっても企業の勤務時間が長い、残業が長い、それから通勤時間が長いということがあるかと思いますので、時短あるいは住宅政策というのが大変重要なことではないかと思います。
 それから、男性も分担するというのは意識の問題もございますので、そういう意識というか社会的風潮をつくっていくということが必要ではないかと思っております。

○小林(憲)小委員 ありがとうございます。
 以上です。

○大出小委員長 次に、太田昭宏君。

○太田(昭)小委員 公明党の太田でございます。
 二十七条には勤労の権利と義務ということが書かれておりまして、私は、二十七条、二十八条というのは、基本的にはこれでいい、これを深めていくことが大事だというふうには思っているわけですが、勤労の義務、こういう内容が憲法の中には書かれていない。もう少し勤労の喜びとか自己実現とかいうようなことの積極的な、生涯働けるということが非常に大事だという観点もありまして、若干プラスしてそういうことが憲法の中に表現されるということは私大事なことかなとも思っているんですが、この点についての菅野参考人の御意見を伺いたいというのが一つ。
 それから、公務員制度改革の中には、人事院のあり方ということについては、どちらかというと縮小していくというような考え方が一つあるわけですが、四十八年の全農林最高裁判決の最後のところで労働基本権制約の代償措置としての人事院制度ということが出ているわけでありますけれども、今後のその辺の方向性ということについて御意見がありましたら。私は案外人事院制度というのは非常に大事だという観点を持っているわけですが、御意見をちょうだいしたいというふうに思います。
 それから三番目に、もう少し公務員制度は前向きの競争原理とか、あるいは試験で入るというよりは途中で入る人が三分の一ぐらいあっていいとか、雇用の流動性というのはそのまま公務員制度の中にも入れて活力をもたらすということが必要ではないかと私は思いますが、これは憲法論とは離れた観点かもしれませんが、御両人からお答えをいただきたいというふうに思います。大体このぐらいで十分ぐらいになっちゃうんじゃないかと思いますので。

○菅野参考人 雇用といいますか労働は自己実現のために非常に大事でありまして、勤労の喜びというのは人間の一生あるいは生活にとって重要なものであると思います。
 それは、憲法的にいいますと、一部分は幸福追求の権利というか、そこに含まれているかと思いますが、二十七条の規定は、私は、いわば労働市場に関する国の政策の理念をあらわしているのではないかと思います。この意味では、雇用とか労働を通じての自己実現というのは、自分で職業を形成し展開していく、そういう権利ですね。これを最近、学者の中にはキャリア権と呼んでいる人がいますが、そういった視点を明示するとか入れるとか、そういうのは確かに憲法上の一つの課題かと思います。
 それから、代償措置というふうな観点からの人事院制度は、私は大変に重要だと思っております。代償措置という言葉を離れても、人事院制度は公務員制度の中で大変重要なものだと思っておりますし、特に、これまでの人事院勧告制度はよく機能してきたのではないかというふうに私は見ております。今後は、経済状況が非常に変化する中でいろいろな難しい問題に当面していくかと思いますが、基本的にはこの制度は私は維持していくべきではないかと思っております。
 それから、公務員制度における競争原理や流動性、これも重要な課題であり、今回の公務員制度改革の一つの視点となっているかと思います。私も参加した公務員制度調査会の基本答申の中にも、こういう視点は重要なものとして入れていただいたわけです。
 以上です。

○藤井参考人 私も三十年ちょっと公務員をやってまいりましたので、そういう経験をもとにして申し上げますと、流動性ということは、やはり仕事が現代の世の中ではどんどん変わり、新しい能力が必要となってきているというようなものもたくさんございますので、むしろ積極的に取り組んでいくべき問題ではないかと思います。
 それから、男女共同参画という観点から申し上げますと、大変優秀な、熱心に仕事をしていた女性が、どうしても子育てあるいは介護のためにやめざるを得ない、そういう方も、介護が終わり、あるいは子育てが一段落したときに、さらにフルタイムのちゃんとした公務員として再採用できればなと常に思っておるものでございますから、そういう観点からも流動性ということに、同じ意味ではないかもしれませんけれども、歓迎をする意見を申し上げたいと思います。

○太田(昭)小委員 藤井参考人のきょうのレジュメの最後のところに「育児・介護等との両立が容易となる環境の整備」という項目がありまして、国と地方自治体、企業、個人、家庭、このあり方というものの論議が必要だというお話でありますが、藤井参考人御自身はどんなイメージを持っていらっしゃるでしょうか。

○藤井参考人 非常に抽象的に書いてしまって、そういう御質問が出たらどうしようかと実は悩んだんですが。
 国や自治体というのは、ナショナルミニマムというか、そういうところを確保するというのが重要な仕事でございますので、先ほど申し上げましたように、あれもこれもというのはなかなか難しい。特に、今、財源難でございますので、国も地方も、選択それから集中というのが必要かなと考えております。
 それから、企業の役割につきましては、ヨーロッパとアメリカとでは若干ありようが違うようでございまして、ヨーロッパの各国では、企業は社会的責任を持つ存在であるという考え方が強いようでございます。それからアメリカでは、企業は契約自由の原則といいますか、企業自由ということで、それほど企業には期待しないという形がある。したがって、アメリカの場合は個人の責任が非常に重要であるということになっているわけでございますが、そこをどういうふうに整理していくかということでございます。これもやはり国民的に議論をして、コンセンサスづくりをしていかなければいけない問題ではないかと思うんです。
 なぜこういうことを書いたかということで一つ例を申し上げますと、育児休業制度につきまして、スウェーデンでは十八カ月取得できるということになっております。一年半、一歳半まで取得できるということです。ただし、手当は一年分しか払われないということ。ただ、手当の額が、まあ年によって違うんですが、七〇%から八〇%支払われているということです。これはどういうことを意味するかというと、子供が一歳までの間、つまり乳児の間は父親あるいは母親が育児休業をとって自宅で育てて、それを過ぎた時点で保育所等の公的施設で面倒を見るといいますか育てるというようなことが、おのずから何かコンセンサスとしてできているのではないかと、日ごろからスウェーデンの制度を見ながら考えていたものでございますから、こういうようなことを書かせていただいたというわけでございます。

○大出小委員長 次に、武山百合子君。

○武山小委員 自由党の武山百合子です。
 きょうは、参考人のお二方、御苦労さまです。早速質問したいと思います。
 菅野参考人に、公務員の労働基本権、公務員制度改革との関連でということでお話を伺いましたけれども、まず、今ILOから公務員の労働基本権ということが、先進国で日本だけがこれに対して勧告を受けているような状態なんですね。これは、まさに政権交代がされていないというところも一つの要因ではないかと思うんですけれども。例えば、公務員の労働基本権について、先ほどお話の中では、憲法の中ではやはり柔軟性を持った書き方だということですけれども、もう少し突っ込んで書いた方がいいんじゃないかなと私自身は思うんですけれども、どうにでもとれるし、どうにでも運用できるというような状態だと思うんですよね。
 二十一世紀の本当に今世界も社会も大きく変わろうとしているときに、これをやはり憲法の中でどういうふうに位置づけていったらいいのか、菅野参考人の御意見を聞きたいと思います。

○菅野参考人 憲法二十八条の規定は、私は、民間労働者については十分に具体的で明確ではないかという気がしているわけです。
 言いかえますと、憲法二十八条を受けて労働組合法というのがありますが、立法政策は、骨格としてはあれ以外には余り考えられないという意味で、憲法二十八条の規定は、民間との関係ではそれほど柔軟でもないし、明確であると思いますが。
 事公務員は、非常に難しい存在であるのはどの国でも同じでありまして、二十八条だけでは立法政策は割り切れない。議会制民主主義、財政民主主義、それからやはり民主主義国家においては、公務員は全体の奉仕者である、こういうようなところから公務員制度というのはどこの国でもつくられますし、それから、公務員の給与等については国会のコントロールが及ぶ。これとどういうふうに調和するかという場合には、双方の原理がせめぎ合って、それで憲法二十八条の方も相対化せざるを得ないというふうに考えていまして、これをある立法政策を決めて憲法レベルにおいて書いてしまうことは、かえって硬直的になってしまうのではないかというふうに私個人は考えております。
 以上です。

○武山小委員 もう少し突っ込んでお聞きしたいと思います。
 それでは、憲法には書くことはないけれども、何らかの形で法整備をした方がいいというふうな御意見でしょうか。法律の整備をする必要があると思いますか。

○菅野参考人 交渉制度については、私は、特に今後、能力主義、業績主義等を入れて、それで人事管理権者の裁量を入れていくというのに対応した制度的な、つまりは政策的、法律的な見直しを検討すべきではないかというふうに実は思っております。
 それと、あとは、やはりその評価をめぐる苦情というのが多くなると思いますので、それについての制度的な対応というのが必要になろうかと思います。
 以上です。

○武山小委員 もう一点お聞きしたいと思います。
 二点だけでよろしいですか。ほかに法律的な整備、考えられることがありましたら、言っていただきたいと思います。

○菅野参考人 いろいろな論点はあろうかと思いますが、しかし、私自身はまだ確たる結論を持っておりませんので、差し当たりはその二点を申し上げておきたいと思います。

○武山小委員 それでは、藤井参考人にお聞きしたいと思います。
 憲法とのかかわりで、やはり何らかの形で、いわゆる雇用の場における男女均等、それから育児、介護、いろいろな今まで考えられなかった状況が今まさに起こってまいりまして、こういう意味で、法律の中に何らかの形で今起こっている現実のものを書いておくべきだと思いますか、憲法の方へですね。

○藤井参考人 どういうことを書くべきかというのはちょっと今頭に浮かびませんが、例えば、さっきおっしゃいました、家族が助け合わなければいけないとか、子供の育児とか介護とかそういうものは家族がそれぞれ分担して責任を持たなければいけないとか、そういうことでございましたら書いた方がいいのではないかという感じは、個人的には持っております。

○武山小委員 細かい話なんですけれども、憲法の中にではなくて、我が自由党は、法律として、子育て終了後の女性がまた社会に復帰するときに、義務づけるという法律をつくるべきだという考え方なんですよね。いわゆる、中途でやめて、子育てが終わったら社会復帰する、そのときにきちっと職に戻れるというものを法律で義務づけるべきだというのが党の政策の一つとしてあるわけなんですね。それに対しての御意見をお聞きしたいと思います。

○藤井参考人 今おっしゃったような規定というのは、ちょっと今手元に育児休業、介護休業法を持っておりませんが、そういった趣旨を踏まえて、再就職する女性の就職支援について触れた条文がたしか既に入っておったのではないかと思います。
 いずれにいたしましても、具体的にどういう形でそういうものが、例えば企業の契約の自由といいますか採用の自由、そういう保障された自由原則と調整できるか。あるいは、逆に言えば、今度は職業の選択の自由といいますか、そちらの方との関係もある意味では出てくる場合もあるかと思いますので、憲法にそれを書くということについては、ちょっといろいろ検討というか議論が必要なことではないかと思っております。

○武山小委員 それでは、男女共同参画の視点から見た労働基本権ということで、先ほどお話はいろいろと聞いたんですけれども、その中で、いわゆる歴史的な経緯、それから女性労働者の現状、それから雇用における均等を実現するための課題ということでずっと経緯を聞いてまいりました。
 これらの中で、やはり憲法の中で位置づけた方がいいものというのはございますか。

○藤井参考人 先ほども別の方からの御質問で、憲法の不備、あるいは盛り込んだらいいというものがあるかという御質問がございまして、まことに申しわけございませんが、ちょっとまだそういう観点で勉強をした、研究をしたことがございませんので、先ほどと同じように、お答えは留保させていただきたいと思います。

○武山小委員 それでは、法律で整備した方がいいようなものはどれでしょうか。

○藤井参考人 先ほど最後に三点ほど申し上げましたが、救済措置の拡充、それから再就職女性の支援、それから育児、介護との両立の問題というのは、具体的にどれということではございませんが、いずれもやはり法的整備が必要な項目がたくさん入っているのではないかと思っております。

○武山小委員 今、地方自治体、市町村で男女平等参画それから機会均等、そういう条例をつくろうとしている、それから条例でもうつくったところ、いろいろ地方では動きが大きくなっておるんですね。それは、国がこういうことを音頭をとってやっている、そのあらわれだと思うんですよね。地方では、そのように男女平等参画それから雇用の場における機会均等、そういうものが条例として上がった、すなわち条例としてつくった、それから、これから議論してつくろう、そういう流れなわけですね。
 これによって、男女平等、機会均等というのは、やはりかなりの影響を地方にも、現実の場として、すなわち行政の分野での公務員、それから民間の企業、それらを通して民間の企業に……

○大出小委員長 時間が終了しておりますので、武山さん、簡潔にお願いします。

○武山小委員 どんどん浸透していくと思います。
 それらに対しての感想をお聞きしたいと思います。

○藤井参考人 先ほど来私が御説明申し上げておりますとおり、憲法の法のもとの平等あるいは女性差別撤廃条約という国際的な合意、これに基づいて、男女共同参画というのは二十一世紀の我が国社会を形づくる基本的枠組みということで、男女共同参画社会基本法の前文に盛り込まれているわけでございますので、そういう方向で各自治体がそれぞれの御判断で取り組んでおられるということは大変結構なことではないかと思っております。

○武山小委員 ありがとうございました。

○大出小委員長 次に、春名直章君。

○春名小委員 きょうは、お二人の参考人には大変ありがとうございました。日本共産党の春名直章でございます。
 菅野参考人にまずお伺いしたいと思います。
 先ほど二十七条、二十八条が非常に柔軟で弾力的な条項で、立法政策を阻害するものではないということをお述べになって、全く認識を共通にしております。その上に立って御質問させていただきたいと思います。
 二十八条の労働基本権の、やはり公務員制度改革というのは熱い焦点ですので、その点について伺います。
 政府の案は、参考人が言われたとおり、先送りです。ところが、公務員制度改革の中身を見ますと、逆に、各省の大臣権限は拡大し、代償機関の人事院の機能を縮小するというものになっています。これは憲法違反じゃないかと思うんですが、いかがでしょう。

○菅野参考人 公務員制度改革大綱に盛られた中には、おっしゃるような面があろうかと思います。
 それで、憲法論というのでそれを解決するほどに、憲法の団体交渉原理とそれからその対立原理間において、ちゃんとした厳密なすみ分けがついているのかというふうな気が私はします。
 やはり立法政策の幅といいますか、それがあると思いますので、これは、今の国民が公務員制度について何を望んでいるか、そして、勤労者としての公務員の利益を憲法二十八条の観点からどういうふうに守っていくか、そういうふうな二つの観点で、やはり政策的に議論して決めた方がいいのではないかと私は思っています。

○春名小委員 もう一点は、ILO勧告です。
 結社の自由委員会の中間報告ではなくて、それを踏まえた勧告の方の冒頭で、公務員の労働基本権に対する現行の制約を維持するとの考えを再考すべきであるというのを冒頭に述べられているわけですね。その上で、消防職員、監獄職員の団結権、それから国家の施政に直接従事しない公務員への団体交渉権、ストライキ権、それから参考人が強調されていらっしゃる、労働組合などとの意味ある対話などが大事だということが示されているんですね。
 ILOに誤解があると言って、この勧告を受けとめようとしないのが政府です。私、これが問題だと思うんですよ。国際基準のILOの勧告に対して、ILOの方に誤解があって、これをまともに、今の公務員制度改革で一番大事な議論をしているときに、これを横に置くという立場に立っておられる政府の姿勢について、私は非常におかしいなと思っているんですが、この勧告との関係はどういうふうにお考えでしょうか。

○菅野参考人 私、申しましたように、これは中間報告でございまして、いわば問題提起、日本政府に対する問題提起ではないかと思うんですね。その中で、かなりILOとしては従来よりも踏み込んで、従来問題になってきたような論点についての、こういうふうにも考えられますよ、そういうふうなことを言ったのではないかと思います。
 ですから、要は、現在の、大がかりなといいますか、五十数年来と言われる公務員制度改革の中で、人事管理制度とかあるいは勤務条件制度について考えるならば、労使関係制度について労働団体も入れて十分な検討をしなさい、それによる納得のプロセスが一番重要なんだと私は見ております。

○春名小委員 続いて、藤井参考人にお伺いしたいと思います。
 お話を伺いまして、今、女性をめぐるさまざまな差別が厳然と残っているわけですが、これは日本国憲法そのものに問題があるんじゃなくて、実際、それを実行するための立法や行政がまだまだ追いついていない、したがって、憲法第十四条それから労働基準法第四条などを実効あるものとする措置がこれから大事になっている、こういう提案として、私、受けとめたんですが、その認識でようございますか。

○藤井参考人 非常に修飾語を削っていただくとそういう流れかもしれませんが。
 何もかも御説明するのが短い時間で不十分でしたので、先ほど申し上げましたように、三点だけ、私見として申し上げたわけでございまして、その他、社会全体の意識の問題とか企業の人事管理制度の問題とか、あるいは働き方の問題とか、あるいは家庭における家事の分担とか、これも意識の問題につながるかもしれませんが、個人個人がみずからの責任において意識的に変えていかなければいけない、あるいは企業に改善をしていっていただかなきゃいけないもの、そういうものもたくさんございます。
 本日は憲法調査会ということで、憲法とまでは言いませんが、法律的なお話をしなければいけないのかと思いまして、先ほどのような御説明をさせていただいたわけでございます。
    〔小委員長退席、小林(憲)小委員長代理着席〕

○春名小委員 ちょっと捨象し過ぎたかもしれません、済みません。
 男性に対する女性の平均賃金が四九・一%と、冷厳な事実があるわけですよね。つまり、例えば九九年には改正均等法が出されて、募集とか採用とか配置とか昇進とか、差別について、努力義務から禁止規定に一応なりましたよね。にもかかわらず、女性への差別というのは引き続き横行しているというのが共通の認識だと思うのですね。
 それで、私が思い出すのは、一九六七年に国連で婦人に対する差別撤廃宣言というのが出されて、そこの第一条で、男子との権利の平等を実質上否定または制限する婦人に対する差別は基本的に不正であり人間の尊厳に対する侵犯である、非常に厳しいこういう宣言が出されているわけですね。男女差別は人間の尊厳に対する侵犯だ、だから根絶しなきゃいけないという立場に立って、七九年から、そして条約ができていく、婦人年という話とか、そういう流れになっていくと思うのですよね。
 この間、韓国に私行きましたら、女性省ができていました。そして、女性発展基本法とか非常に大事な法律をたくさんつくって、女性の解放と地位向上のために政府を挙げて努力している姿を学んできました。女性局すらなくそうとしている日本の政府とえらい違いだなと私は実感したのですけれども、こういう、人間の尊厳に対する侵犯だという位置づけをしたら、やはりもっと強力なことをやらなきゃいけないことがあるなと思うのですよね。
 一つだけ、具体的な質問をします。
 救済措置の拡充が必要だということが提言されているのですけれども、その中で、採用差別、昇進差別問題に対する行政指導には限界があるということが言われているわけです。私は、雇用機会均等法の改正がされて禁止規定になったけれどもいまだに賃金差別などがひどいのは、やはり罰則規定がないからだと思うのですよ。企業に対してそういうことまできちっとやらないと、本当に抜け道で、コース管理なんかをやられて、実際、間接差別でやられているわけでしょう。そういうところにやはりメスを入れていくということが私は大事かなという気がするのです。その点についてのお考えをお聞かせください。

○藤井参考人 法律の遵守といいますか、担保措置としてはいろいろなことがあると思います。今の均等法には、調停制度とかあるいは勧告、局長の勧告あるいは大臣の勧告制度というのがあるし、それに従わなかった場合は企業名の公表制度というのがございます。
 これを改正していただいたのが平成九年、施行が平成十一年からでございます。こういう手続ができましたので、もう少し利用件数というか、利用者がふえるかと期待しておったのですが、というのは、調停制度は、改正前は事業主との合意がなければ調停が始まらない、改正後は労働者側の一方的な申し立てで始められるという形になったわけです。ですから、非常に労働者の方々には利用しやすい制度になったのですが、確かに改正前よりは調停事案の件数はふえているものの、私どもが考えていたよりはかなり少ないというのが現状でございます。
 そういう状況の分析をしてみますと、やはり個人で申し立てるというのがなかなか、日本の一般の方の権利意識という中では難しいところがあるのかなという感じもいたしまして、もう少し救済措置を拡充し、これは行政の中での救済措置でございますが、そういう申し立てを受けて、場合によっては裁判で争うことをサポートするといったようなこともやっていく、そういう中でいろいろな判例なり事例の積み重ねをし、事業主の方々の差別意識とかなんとかというのをなくしていく、そういう努力の方がいいのではないかと私は考えております。罰則を設けて罰金とか何かを課すことによって法律を守らせるという形よりは、そう思っているところでございます。

○春名小委員 どうもありがとうございました。

○小林(憲)小委員長代理 金子哲夫君。

○金子(哲)小委員 社会民主党・市民連合の金子です。
 お二人の参考人には、御意見ありがとうございました。
 最初に菅野参考人にお伺いしたいんですけれども、私は、公務員の労働基本権は、基本的に憲法で保障された労働三権をまず与えるべきだ、その上に立って、さまざまな条件の中で制約が必要なものは制約をしていくという考え方に立つべきだと。例えば、消防署の職員が団結権すら認められていないような今の現状というのは、もう全く問題の外と言っていいような現状だと思うんです。国際社会の、特に先進国の中にあって、そのような状況はないと思うんです。
 そして、そのことをまず申し上げながら、今回の公務員制度改革大綱の中身を見ますと、先ほど参考人もお話がありましたように、基本的にその中身は、いわばそこに働いている人たちの労働条件、勤務条件にかかわるようなことが多数出てきているわけですね、能力制度の導入だとかそういったことを含めて。
 そうしてまいりますと、そのことが、労使というか、そういう中で話し合いができない、話し合いがないままにこういう形で進んでいく、このことに、もうまさに労働基本権が今公務員に与えられていないところの一番大きな問題点が現実的な問題として出ているように思うんですけれども、その点について参考人はどのようにお考えでしょうか。

○菅野参考人 先ほど申しましたように、大綱の人事管理制度の改革の中の、人事管理権者の権限を強めてそれで能力主義等を推し進めるというのに対応した交渉制度の改革があってしかるべきものと考えております。

○金子(哲)小委員 そうしますと、今参考人がおっしゃったとおりのことを考えれば、今度の大綱の中で労働基本権の制約については先送りするということは、本来あってはならないことだと思うんですよね。やはり、その論議の過程、プロセスということが極めて重要になってくるわけでして、そういった意味から、今労働組合からもさまざまな意見が出ているのは、ある意味で当然だと思うんですね。
 ILOの勧告の中身もまさにそのことを、有意義な協議が速やかに行われるよう強く勧告すると。それはさまざま具体的な例はありますけれども、最も大事なのは、労使の話し合いについて協議をすべきだということを示唆しているように思いますけれども、その点について、やはり日本の公務員制度の労使関係において最も欠落しているのは、とりあえずスト権の問題はおいても、そのことすら十分に保障されていないのが今の現状だと思いますし、そこは最低でも改善するというのは、この公務員制度改革の中にあって基本的な認識として持つべきだというふうに考えるんですが、重ねてですけれども、どうでしょうか。

○菅野参考人 最大の論点だと考えておりますし、それについては公務員制度調査会の中で検討したときも非常に重視して議論したところであります。
 それで、どういうふうな制度にするか、仕組むかは、なかなか技術的にも制度的にも難しい点があるので、よく現場も知っている人などの意見も聞いて検討すべきではないかと思っております。

○金子(哲)小委員 端的に答えていただきたいと思いますけれども、公務員制度調査会の論議の中で、国際的な関係、例えばヨーロッパとか、少なくとも、日本と同程度の経済的な関係にあるような国々の公務員制度と日本の公務員における労働基本権の制約状況とについての比較とか検討はされましたでしょうか。その点、短くで結構です。

○菅野参考人 いたしました。それで、それは参考にして議論をしたつもりでございます。

○金子(哲)小委員 そうしますと、せっかくしていただいた割にはこれが先送りになっているということは、参考人自身も大変じくじたる思いで今いらっしゃると思いますけれども、やはりそれをやれば、今の日本の公務員制度の中における労働三権の扱いが国際的に見てもいかに不合理かということは明らかなことだと思います。
 質問の時間が限られておりますので、次に、藤井参考人に質問させていただきたいと思います。
 私は、強制力は別にして、ただ、日本の場合に労働法制上、残念ながら義務規定とかが多くて、例えば年齢制限の問題もそうですけれども、ここらのことが実行上備わっていかない問題の中に、どこまでの強制力とかはありますけれども、そういったことは日本の場合、企業の努力にかなりゆだねているという側面が多過ぎるのではないかと。
 私は、今までの日本の企業の社会の中にあって、サービス残業の問題とかいろいろなことを考えてみますと、これはそこの企業の良心にだけゆだねていても、それを実行するということは、今の日本の労使関係の中、環境状況の中では十分守られないのではないかというふうに思っておりますけれども、その点については、どのようにお考えでしょうか。

○藤井参考人 事案によりけりではないかと思います。
 最低賃金の問題とか労働安全衛生法上のいろいろな規制の問題とか、そういうものはやはり強権的に罰則をもって行うべきものだと思いますけれども、男女の均等の問題とか年齢の問題とかというのは、片方で企業の契約自由原則とか経済活動の自由というのがございますし、あるいは企業そのものの存立をどうするかという問題もございますから、やはりそれとの調和ということを考えながら、自主的に、段階的に改善をしていくという政策選択をしているものだと思っておりますので、私も二年前まではその責任者でございましたので、そういう施策がよろしいのではないかと。
 先ほど、ちょっと審議会の建議を読ませていただきましたけれども、理念というか、そのものは高く掲げつつ、やはり現実から遊離したような行政というのは、日本の場合は定着しないのではないかと思っておりますので、今の形でよろしいのではないかと思っております。

○金子(哲)小委員 先ほど参考人、男女の賃金格差の問題をお話しになりまして、厳然とそういうことがあると思います。
 それから、いただきました資料でも、確かに、男女の賃金格差の中で、それをつくり出す大きな要因の中に、いわゆる就業形態の多様化というのをいただいておりますけれども、まさに女性の職場、卸売、小売等にいけば、もう六割強が、三分の二がパート的な労働者だ。結局、今、パートとか有期雇用の人たちの賃金が抑えられている。結果として男女差別のようですけれども、いわば雇用形態による賃金格差というものが非常に広がっている。
 そしてまた、日本の場合には、特に最近この不況期の中で、正規社員をリストラしてパート化をしていくというようなことによって、より一層それが深刻化する。そして、しかもその中に女性が多いというようなことでの賃金格差が拡大をしているように思うんですよね。
 私ども今、国会の中でも、私も議員懇のメンバーの一人に入っておりますけれども、パート、有期雇用の労働者の皆さんの、いわば同一価値労働同一賃金の考え方に立って、それをやはり保障していくような制度をつくるべきだというふうに考えております。これだけ女性の中にパートの労働者が現実の問題として占めていくということになりますと、その問題は、やはり一定に法律的にも保護していくというか、そういう賃金問題を保障していくことは、ある意味で女性の賃金を上げていくことにもなるのではないかというふうに思っておりますけれども、その点についてのお考えをお聞かせいただきたいと思います。

○藤井参考人 女性労働者の約三分の一が、確かにおっしゃるとおり三十五時間未満のパートタイム労働者ということでございます。パートタイム労働者と一般労働者の格差の問題というのは、雇用労働行政の中で大変大きな問題になっているかと思っております。
 ただ、日本のパートの問題というのは、大変複雑ないろいろな問題を抱えておりまして、欧米各国のパート、短時間労働者というのは、単に時間が短いから、同じ職務をしていれば時間比例で均衡を図るべきではないかという考え方が非常に定着しやすいかと思うんですが、日本の場合は、正社員と非正社員という区別、あるいは契約自体が違うとか、残業がないとか、転勤がないとか、いろいろ契約内容に大きな差があるというのが日本のパートの現実でございますので、均衡ということを考える場合、そういう別の要素をどういうふうに考えていくかというのが重要な課題になっているかと思います。
 この問題は、たしかきょうあたり、厚生労働省の審議会等で議論が行われているのではないかと思います。どういう結論になるのかはわかりませんけれども、大変パート問題は難しい問題であるけれども、先ほど申し上げましたように、子育てが一段落した後、再就職をしたいという女性がたくさんいて、そういう方々が選択される形としてパートタイム労働というのは相当多くを占めているわけでございますので、いろいろな形でのパートタイム労働者の労働条件の向上というのは図っていかなければいけないと思っております。ただ、それはどういう政策でやるべきかということについては、厚生労働省の審議会で、今、労使、公益含めて御議論いただいているところでございますので、その結論を待つべきではないかなと考えているところでございます。

○金子(哲)小委員 ありがとうございました。なかなか難しい答えのようでして。

○小林(憲)小委員長代理 次に、井上喜一君。

○井上(喜)小委員 保守新党の井上喜一でございます。
 きょうは、参考人、御苦労さまでございます。まず、菅野参考人にお伺いしたいんであります。
 私は、憲法上の権利であろうと何の権利であろうと、やはり歴史的な背景がありましてそういった権利というものが固まってきている、こう思うんであります。とりわけ労働基本権あるいは労働関係の権利につきましては、やはり労使関係の積み上げというのがその権利の中身になっていると思うんですね。抽象的にこういう権利があるからこういう権利を認めろというんではなしに、労使が現場で交渉を通して積み上げてきた、それが今の労働基本権なりその他の権利に結実しているんじゃないかと思うんであります。
 そこで、今、公務員につきまして、ILOの勧告というんですか、がありまして、労働三権についてこれを認める方向で検討したらどうかね、こういうようなことがございましたけれども、日本政府の立場は非常にかたいわけですね。私は、必ずしもああいう政府の立場じゃなしに、もう少し弾力的に対応できるんじゃないかなというような感じなんでありますけれども、参考人に、今の、国家公務員でよろしいんです、労使、つまり役所の側とそれから働く方の実態を見まして、おおよそこの労働基本権というのは認められないものなのか、あるいは認められるとすればどういう権利が認められるようになるのか、もう少し具体的にその辺のところを御説明願いたいんです。あるいは、方向としては、もう少し弾力的にこの点については検討を深めた方がいいというような点があれば、その点についてもお伺いをしたいと思います。

○菅野参考人 最初の方でおっしゃった、歴史的背景あるいは労使関係の積み上げを考慮すべきであるというのはおっしゃるとおりでありまして、きょう申し上げたように、戦後のいわば混乱期から高度成長期、そしてその後の低成長期、それぞれに労使関係の様相があって、変わってきたわけであります。一言で言うと、民間でも公共部門でも、労使関係の安定化というのがあろうかと思います。労使関係というのは、成熟化した場合としていない場合とでは大変に違う、同じ制度でも違うわけであります。
 そういう中で、私は、長年の間、日本の公務員制度、公務員労使関係制度は、人事院勧告制度を中心として、公務員の勤務条件、勤労条件を高め、あるいは維持するという方向でそれなりの機能を果たしてきたというふうに思っておりまして、これを大きく変えることを国民が本当に望んでいるかというふうな気が実はしているわけであります。ただ、今度の新しい公務員制度は、何回も言いましたように、新しい要素を入れようとしていますから、それに対応して考えるべき点があるのではないか、それは交渉制度ではないかというふうに考えている次第であります。

○井上(喜)小委員 次に、藤井参考人にお伺いをいたします。
 男女共同参画社会ということ、もう随分長くこういったことが人口に膾炙をしてきたかなと思うんでありますが、最近、私はますますこの男女共同参画社会なるものがわからなくなってきております。いろいろな意見があるんですね。国会議員の中でも、参議院議員でありますけれども、かつてよくテレビに出ておられましたが、最近はどういうわけだかテレビに出ておられない人の御意見なんかは、要するに、この社会は男がおるのが悪いんだということで、男がいない社会が一番いいんだというようなことをその方はおっしゃる。
 あるいは、ジェンダーフリーというんですか、これは文部省の一部にあるようであります。どうも、男女の性を認めるといいますか、その差を認めるということは余りよくないんじゃないかということですね。一人の人間として同じように扱ったらいいということでありまして、例えばひな祭りあるいは端午の節句のこいのぼり、これはやはり性を意識しているからこんなものはやめた方がいいんだというような、これは七百万円ぐらいの金を使って全国の教育委員会とか小中学校にも配ったりしているわけでありますが、そういう考え方もある。
 あるいは、今の内閣は、私はよくわかりませんが、私の推測するところでは、男と女にしかできないことは別にしまして、出産なんかは男にはできないことでありますが、そのほかのことは一つの仕事を二分の一ずつやるのが男女共同参画社会だというふうな考え方でこの行政が進んでいるんじゃないかと私は思うんですね。
 私は、男女というのはやはりいろいろな意味で違うわけでありますから、その特性を補い合うとか、あるいは協力するとか、あるいは役割を受け持つというようなことは一向に構わないんじゃないかと思うんであります。そもそも男女共同参画社会の原点とはいかなるものなのか、これは短時間でまことに申しわけないんだけれども、お教えをいただきたいと思います。

○藤井参考人 昔、こういう国会の委員会に出席させていただきますと、ほとんど男性の先生でいらっしゃいました。本日は、女性の方も座っていらっしゃいます。要は、男性であろうが女性であろうが、その個人の能力、適性等に基づいて議員に選ばれ、あるいは公務員になり仕事をする、一言で申し上げればそういう社会だと思います。
 ですから、女性だから国会議員にはなれないとか、あるいは、私が三十五年前に大学に入りましたときは、法学部でございますが、女性が法学部の四年制大学に行くなんてとんでもないと頭から見事に言ってくれた方も何人もいらっしゃいましたんですが、そういうことではなく、男性であろうが女性であろうが、男性だからこうしなければいけない、女性だからこうしなければいけないという、そういう社会生活上のいろいろなことについて固定的な考え方というのを押しつけるのではなく、やはり個人個人の希望なり、意欲なり、能力なり、適性なり、個性なりというものに着眼をしていきましょうという社会というふうに申し上げてよろしいかと思います。

○井上(喜)小委員 よくわからないんでありますが。
 こういう点はいかがでしょうか。今、私は、公の場所、つまり社会的な活動の分野で優秀な女性の方がいっぱいいますから、そういう人がお互いに、男と一緒に働いていくことはいいことだと思うのでありますが、家庭というのはプライベートの社会ですね。にもかかわらず、最近の公権力は、ああせいこうせいと言うわけですよね。確かに、虐待とか殺人とかいう刑事犯が行われるのは別でありますが、かかあ天下であろうと亭主関白であろうと、家庭の中の話なんですね。これはどうですか。男女共同参画社会推進論者として認められることなんですか、そうでないことなんですか。いかがでございますか。

○藤井参考人 私は、そういう御質問をいただくときはいつも、それは家庭の自治の問題でございますとお答えすることにしております。

○井上(喜)小委員 わかりました。ありがとうございました。

○小林(憲)小委員長代理 次に、平林鴻三君。

○平林小委員 順番をちょっと変えていただきまして、藤井参考人の方に先に聞かせていただきます。
 私は、憲法の条文というのは、家庭の問題にしても、婚姻の条項に書いてございますが、あるいは社会的な活動の法のもとの平等の問題にしても、憲法の条文を直す必要はないんだろうという気持ちでおります。これに対しては、もし御意見があればおっしゃっていただきたいと思います。
 もう一点、お願いいたします。
 実は、男女共同参画で救済措置をということを強調していらっしゃいましたけれども、公務員ならともかくといたしまして、私的な企業では、法人であれ個人であれ、いわば私的な自治にゆだねられる部分というのが非常に多いんだろうと思うんです。それに対して、男女共同参画ということで行政機関が積極的に介入していくということは、実際問題として、出先で働いておられる方々、藤井参考人も出先に出られたこともあろうかと思いますけれども、なかなか難しい問題だなと思って、私はちょっと思案をしております。
 こういう指針で行政機関が救済に入りなさいというような具体的な案が既にあるものでしょうか、これからゆっくり研究されるものでしょうか。そこの点を伺っておきたいと思うんです。

○藤井参考人 最初の御質問でございますが、現在の憲法の条文で直すものがあるかということにつきましては、特段ないのではないかと思っております。ただ、ほかにどういうものを盛り込んだらいいかということについては、まだ留保させていただきたいというお答えはさせていただいたところでございます。
 それから、救済措置の拡充の問題は、これは男女雇用機会均等法の中で、採用とか昇進で女性を差別することが禁止されております。ただ、条文で禁止されておりましても、救済措置が十分といいますか、有効な救済措置でないと実際の救済がなかなかできないところもあるのではないかということで、今も救済措置はあるのでございますが、もう少し拡充をすべきではないかということで申し上げたものでございます。
 現在の救済措置はどんなものかといいますと、一番典型的なのは、リストラの中で、女性だからということで差別的に解雇をされた方がいらっしゃいます。そういう方が出先機関、労働局というのがございますが、そちらへ申し出をされる。そうしますと、そこの担当者が企業へ出向きましていろいろ事情を聞くわけでございます。その事情聴取の結果、違反があると認められれば、その事業主に対して、違反があると思われるので改善をしてくださいというようなことをやらせていただいております。また、その労働者の方が調停を望まれる場合は、調停を始めるという形になっております。
    〔小林(憲)小委員長代理退席、小委員長着席〕

○平林小委員 もう一回、藤井参考人に。これから新しい制度を考えるとすれば、どういうことを考えられるのか、簡単にお願いします。

○藤井参考人 救済措置として今ありますのは、調停ということで、双方の意見を聞いて調停案をまとめて、こんなところでどうでしょうかといって双方が合意すればそれで解決するという形のものでございますが、やはり差別を受けた、権利を侵害されたという、いわゆる権利侵害事案というようなものについては、公益的な第三者が判断をして、強制力のある命令等を事業主の方に発する。ぎょっとなさるかもしれませんが、そういう形のものがあり得るかと考えておりますが、イギリスなどはそういう手法をとっております。

○平林小委員 ありがとうございました。
 では次に、菅野参考人に若干お伺いしたいと思うのですが、私のいわゆる過去の思い出から考えますと、公務員の労働権というのは、政治的労働運動といいますか、左翼政党と労働団体が一致して、例の二・一ゼネストとか、まあ安保のときは余り公務員の労働権は問題にならなかったと思いますが、ILOの八十七号条約の批准後の国内法制定のときにも相当なもめごとはありました。また、例の文部省の勤評闘争なんかもそうでございます。甚だしいのは、スト権ストという、要するに、日本の法律では労働条件は法定ということが憲法に決まっておりますのを、違法のそういう活動を公務員の職員団体まで積極的にやった。そういうようなことで、公務員の労働権というのはそういう労働運動の消長と非常に関係をしておるように思っております。
 そういう点から考えますと、これからも日本の労働運動が公務員の立場というものをどう考えていくかということに非常に関連があるような、まあ一種の心配をしておるわけでございます。
 それで、具体的にお尋ねしたいのは、やはり公務員の労働権というのが法定であるということを憲法が定めておる以上は、その大原則はこれからも変わらないので、労使双方の話し合いで、あるいは労働者側の実力でこれを変えていくということは私どもがとるところではない、そういう気がいたしておりますが、そういうことに関する御見解はどんなものでしょうか。

○菅野参考人 私がきょう、戦後最初から話を始めたのは、やはりそういう経験があったということを、そういう記憶は、我が国における立法政策において考えざるを得ないのかなというふうに思っている点であります。
 それで、使用者が政府なものですから、政府と交渉するという意味での政治性というのはどうしても持ってくるわけです。その場合に、アメリカでは、それは政治的な過程をゆがめるものだとして認められないんだという考え方がとられていて、昭和四十八年の最高裁判決はその考え方をとったというふうに言えようかと思います。
 いずれにせよ、労働運動として私はそういうのが好ましいというふうには思っておりませんし、今の労働運動の方々も大勢としてはそう思っているのではないかと思います。

○平林小委員 もう一つお尋ねしておきたいのは、ILOの勧告や報告というものの国内法に及ぼす影響といいますか、そういうことについての問題でございます。
 質問時間が終わったようでございますから簡単に申し上げますが、私は、ILOの報告やら勧告というのは、何も日本の憲法や国内法に優先するものではないと思っております。要するに、ILOの行動というものは、国際的な労働関係における常識を日本におっしゃっているのかどうか。各国さまざまな公務員労働関係がございますが、それを普遍的な原則として日本に押しつけられても、日本としては、参考にはするけれども、それに直ちに従う、そういう義務はないものだと思っておりますが、その点の御意見をちょっと伺っておきたいと思います。

○大出小委員長 質問時間が終了いたしましたので、菅野参考人、簡潔にお願いいたします。

○菅野参考人 これは、日本も加入している国際機関の国際基準ですので、憲法上もできるだけ尊重せよということになっているのだと思います。ただ、今回の報告は中間報告であるということだろうと思います。

○大出小委員長 次に、水島広子君。

○水島小委員 民主党の水島広子でございます。
 きょうは、菅野参考人また藤井参考人、お忙しい中ありがとうございます。せっかく貴重なお時間をいただきながら、こちら側の出席率が非常に悪くて恥ずかしく思っているところでございますけれども、本日は、私は、主に男女共同参画の方について質問をさせていただきたいと思います。菅野参考人もこの方面において非常に御造詣が深いということはかねてから伺っておりますけれども、十分という限られた時間でございますので、主に藤井参考人にお伺いしたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
 ここのところ、故意なのか過失なのかわかりませんけれども、男女共同参画の概念がかなりゆがんで議論をされているなというふうに思っておりますし、先ほども多少混乱した議論があったかなというふうに伺いました。また、国会審議も一時期混乱いたしましたし、現在も、地域における条例制定の現場でもいろいろな混乱があるというふうにも聞いております。
 先日、これらの点につきましては、私は、予算委員会の分科会におきまして官房長官に質問をさせていただきまして、私が考えているジェンダーフリーというものと男女共同参画社会基本法の定めるものが同じであるということを確認いたしまして、大変安心したところでございます。長く労働行政に携わってこられた藤井参考人に、本日は、この憲法調査会という場で、基本的なことをまず確認させていただきたいと思っております。
 憲法が定めております男女平等そして勤労の権利、これらをともに満たすためには、出産ですとか妊娠ですとかあるいは月経ですとか、そのような生物学的な男女の違いによって男女の働く機会の均等ができるだけ妨げられないようにするのが政府の役割である、そのためにできるだけ努力をしていくべきであるというふうに理解してよろしいでしょうか。

○藤井参考人 生物学的にいろいろ違いがあるということ、それから、女性の場合は出産というのがあるということですね。でございますから、先ほど御説明いたしましたように、労働基準法の中にある母性保護、そういう出産機能に着目した保護規定というか、その部分については、一般の女子保護規定が緩和され、あるいは解消される中でも拡充されてきたわけでございますので、今水島委員おっしゃいますように、そういう差については、むしろ保護を拡充して平等を実現していくという考え方でございます。

○水島小委員 安心いたしました。この問題になりますと、突然、生物学的な男女の違いと、社会的につくられた男らしさ、女らしさというものがどうしても時々混乱して語られてしまいまして、やはり、労働行政の目指すものというのは、生物的な違いというのをもちろん尊重した上で、社会的なジェンダーというものを、できるだけそれに縛られずに、一人一人が自分らしく暮らしていく社会をつくっていくところに原点があると思っておりますので、今確認させていただけたと思います。
 きょうのこの男女共同参画の問題を議論していきますと、きょうの議論にも既に出てきているわけでございますけれども、必ず、家庭の問題ということが出てまいります。確かに、仕事と私生活というのは表裏一体の関係にございまして、日本は、いわゆるワーク・ライフ・バランス、仕事と私生活のバランスと訳すのだと思いますけれども、このワーク・ライフ・バランスが極端に悪い国だということをよく聞いております。女性の労働力率がM字型であることとか、男女の賃金格差が大きいこととか、また男女の家事労働時間が極端に違うことなどは、それを示す一つのデータなのかなと思っておりますけれども、もしもそのワーク・ライフ・バランスについて、それを端的に示すものを何か御存じでしたら教えていただきたいと思います。
 また、このワーク・ライフ・バランスというものは、女性の社会進出ですとか、また少子化という観点からは今まで日本の政治の場でも語られてまいりましたし、また、親のワーク・ライフ・バランスがよいということは子供が健やかに育つ上でも重要だと私は思っておりますけれども、アメリカではビジネス戦略として既に活用されているというふうにも聞いております。つまり、私生活が充実している人の方が仕事の効率がよいということだそうでございます。
 日本国憲法の精神を生かすには、その人が人間としての尊厳を持って生き生きと働ける環境を提供することが大切だと思いますし、そういう観点からも、ワーク・ライフ・バランスのことを重視しなければならないと私は考えておりますけれども、この点についての藤井参考人の御意見をお聞かせいただければと思います。

○藤井参考人 今、水島委員おっしゃいましたことは、本当にそのとおりだと思います。仕事と家庭の両立という言葉で行政上は言ってまいりましたけれども、さらにそれを進めた概念として、ワーク・アンド・ライフ・バランスですか、そういう概念が最近持ち出されているのは大変結構なことだと思うんです。
 私が行政の責任者でありましたときに勉強して研究会報告でまとめたものに、ファミリー・フレンドリー企業という概念がございます。これは、企業が従業員のまさにワーク・ライフ・バランスをとるためにいろいろな措置を講じている、そういうのがアメリカあるいはイギリス等で推奨されているということがあったものですから、そういう施策を打ち出して表彰制度等々を設けたものでございますが、そういうようなことでお答えになっていますでしょうか。

○水島小委員 まさにそういう、企業がやらなければいけないものであるとともに、今のこの日本の閉塞的な経済状況を打開していくためにも、活力を取り戻していくためにもむしろプラスになる施策なんだというような観点をぜひこれからもっと皆さんに持っていただければと思っております。
 私たち民主党は二〇〇一年には、その人らしい仕事と家庭のバランスを可能にする、仕事と家庭の両立支援法案を国会に提出させていただきましたし、また、ことしはパート労働者の均等待遇原則を定めた法案の骨子をまとめたところでございます。これから法案提出に向けてさらに取り組んでいくところでございますけれども、こうした施策の方向性は正しいと御確認いただけますでしょうか。

○藤井参考人 個別にはいろいろ申し上げたいこともないわけではございませんが、方向としては大変結構な方向ではないかと思います。

○水島小委員 あと、きょうは主に働くということで御意見を伺っているわけでございますけれども、やはり、労働現場における男女共同参画の問題を考える上には、一つは仕事と家庭の両立の問題、またセクハラの問題、またもう一つは、やはり私は選択的夫婦別姓の問題だと思っております。姓が急に変わることによって、どうしても働く権利がある程度損なわれるということがございますので、これらの点について恐らく御同意いただけると思いますけれども、何か笑っていらっしゃるので、最後に、時間が終わる前に、せっかく菅野参考人にいらしていただいておりますので、今まで私と藤井参考人がいろいろ議論してまいりましたこと全般に関しまして、労働法の大家という立場からで結構でございますけれども、何かコメントをいただければ幸いでございます。

○菅野参考人 私も、実は今、学部長という職をやっていて、それで、男女共同参画を推し進めるにはどうしたらいいかというのを具体的に考えております。これはもう、その意識を持ってやるということが重要だと思いますが、なかなか他方では時間がかかるということも確かかなという気がしておりまして、前向きに、しかし根気よくやっていくべきことだと思っております。

○水島小委員 どうもありがとうございました。

○大出小委員長 次に、谷本龍哉君。

○谷本小委員 自由民主党の谷本龍哉でございます。
 両参考人、長時間にわたりまして本当にお疲れさまでございます。これで最後の質問者でございますので、安心をしていただければと思います。
 先に二問まとめて質問させていただきます。それぞれお一人ずつ続いて答えていただければと思います。
 まず、菅野参考人に御質問をいたします。
 今までたくさんの質問の中でかなり触れられておりますので重なるかもしれませんけれども、もう一度基本的な部分について、参考人の考え方の方向性を、ちょっと頭でイメージできないものですから、答えていただければと思います。
 今回の公務員の労働基本権の問題でありますけれども、これはまず二十八条、参考人言われたとおり、「勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。」というところから導かれて、必然的に、今回ILOの勧告にあるように、公務員がみずからの給与決定に参加することが大幅に制約されているではないかという指摘になったんだと思います。二十八条から引っ張れば当然こうなるんだろうというふうに思います。
 ただ、同時に、憲法の中に四十一条と八十三条があって、四十一条で国会は唯一の立法機関である、そして八十三条で「国の財政を処理する権限は、国会の議決に基いて、これを行使しなければならない。」これから引っ張れば、先ほどおっしゃられた主権理論あるいは財政民主主義、つまり、公務員の勤務条件というものは、憲法上考えれば、国民全体の意思を代表する国会において法律や予算の形で決定すべきであって、労使間の自由な団体交渉に基づいて合意するというものではないという考え方が出てくるんだと思います。
 公務員がストライキ等を行って、それで予算や行政サービスに対してその内容決定に影響を与えた場合には、それは民主的政治過程を歪曲するのではないか、そういう考え方が出てくるからここに対立点があって、この二つのはざまにあるのが今回の問題だと思うんです。この解決方法として、参考人の個人的な考え方としてはどういう方向性に持っていくのが一番いいとお考えなのか、答えていただきたいと思います。それだけです。
 時間が短いですから、先に質問だけ終わらせてしまいます。
 藤井参考人に対しましては、いろいろと男女共同参画について御意見をいただきました。
 一つ、男女平等という場合に、平等という言葉が外来語であるせいもあると思うんですけれども、日本においてはしばしば、いろいろな分野で誤った使われ方、つまり、何でもかんでも結果を平等にしてしまえばいい、そういう使われ方が今まで多かったように思います。決してそうではなくて、今回の場合におきましても、あくまで挑戦する条件であったりあるいは評価される条件であったり競争条件、こういったものをすべて男女かかわりなく平等にして、しっかりと評価をしてもらって、そして雇用される、あるいは給料を受ける、こういう部分が大切だと思います。
 ただ、見ていただいてわかるとおり、女性がふえたとはいえ、日本の国会もまだまだ女性議員が少ない状態の中で、同じようにフランスや韓国も少ないわけですけれども、こういった国はクオータ制というのをとってふやそうという努力をされています。これは、一つ結果を強引にでもつくり出して、それによって意識改革をして変えていこうということだとは思うんです。
 同時に、最近、書籍で得た情報ですけれども、アメリカのある企業が、これは男女じゃなくて人種の問題ですけれども、人種の枠をつくって採用した。その中で結果として、成績がはるかに上だった白人男性が雇われずに、他の人種の方が成績がかなり低かったのに雇われた。これに対して白人男性が訴訟を起こしたというようなことも聞いております。
 平等を何とか達成しようとすると、今度は逆差別というのが変な形で出てくる場合もあります。そういう意味で、この男女共同参画というのを達成していく場合に、参考人としては、ある程度強引でも結果を求めながら進めていった方がいいのか、それともあくまで環境整備、制度整備、そしていろいろな条件整備を推進して、その結果として少しずつでも達成していく、そういう方向性の方がいいのか。どちらでお考えかを聞かせてください。

○菅野参考人 現在の日本の公務員制度における労使関係制度は、勤務条件法定主義といいますか、あるいは詳細法定主義を特徴としていまして、そのもとで人事院勧告制度があるわけであります。これは、確かに諸外国から見るとかなり特徴のある制度なんですが、公務員の勤務条件のあり方とかレベルとかということを考えた場合に、定着し機能してきたのではないかと思います。
 問題は、議員がおっしゃるはざまにおいて今後どう考えるべきかということについては、能力、業績というものをキーワードにした評価が大きく物を言うというか、評価によって大きく勤務条件が変わっていくというふうな制度の方向に行くのであれば、それに対応した制度づくりにおいて協議や交渉が自主的により強くなされるべきではないかということと、それから苦情処理が充実させられるべきではないかということであります。

○藤井参考人 男女雇用機会均等法について先ほど御紹介申し上げましたが、男女雇用機会均等法は、機会均等という言葉のとおり、結果の平等ではなく機会の平等を定めているものでございます。これについては、制定のときにいろいろ議論があったようで、結果の平等でなければいけないという意見もあったようでございますが、先生御指摘のとおり、逆差別という問題が起きるのではないかという意見があったり、そのときの状況を踏まえると、やはり機会均等であるべきだということでこういう法制定になっていると承知しております。
 それから、男女共同参画社会基本法というのも、基本的には、機会の平等といいますか、男女が共同してあらゆる分野の活動に参画をするという定め方でございますので、これは機会の平等というか機会の均等というのを定めているものだと思います。
 ただ、均等法にも参画法にもそれぞれ、積極的改善措置、ポジティブアクションというのがございまして、そうはいっても、機会を均等にしただけではいつまでたっても女性が一%、二%という状態が改善しないのではないか。それは過去いろいろ差別が行われてきた遺産みたいなものがあったりとか、あるいは社会情勢、意識とかなんとかということが影響するから、法律が目指している男女共同参画とか男女均等というものがほうっておいてはなかなか実現できないところがある。であれば、それは積極的改善措置ということで、事業主の方あるいはいろいろな団体のトップの方々の経営戦略のようなものとして、もっと積極的に女性を活用、登用するという行動計画をとっていただきたいというようなことをお願いしているわけでございます。
 したがいまして、ほうっておくというのと、いや、クオータ制みたいに強制的に枠をつくって登用するというのと、中間的な形かもしれませんけれども、事業主さんの自主的な努力によって積極的に女性をもっと採用し、活用し、登用していってくださいという、これはもう行政指導ベースになっておりますが、そういうことをやっているという状況ですので、やはりそういう形で、漸進的ながらかつ若干積極的に男女平等の形を実現していくというのが今の日本の選択しているやり方ではないかと思っております。

○谷本小委員 どうもありがとうございます。
 もうあと一分ほどですが、最後に一言ずつ、もしお二人、最後の言葉がございましたら、どうぞよろしくお願いします。

○菅野参考人 特にございません。どうも申しわけありません。

○藤井参考人 きょうはいろいろと意見を聞いていただきまして、大変感謝しております。
 私は、昭和二十二年の生まれでございまして、この憲法と同年齢でございます。もう賞味期限が切れたのかなと思うと、ちょっと悲しいなという感じもいたしますが、リニューアルしてまたやっていただくのかなと思うと、また私も元気が出るところでございますので、どうぞ積極的な御議論の末、いい結論を出していただければと思います。よろしくお願いいたします。

○大出小委員長 これにて参考人に対する質疑は終了いたしました。
 この際、一言ごあいさつを申し上げます。
 両参考人におかれましては、貴重な御意見をお述べいただき、まことにありがとうございました。小委員会を代表して、心から御礼を申し上げます。(拍手)
    ―――――――――――――

○大出小委員長 これより、本日の参考人質疑を踏まえて、小委員間の自由討議を行います。
 一回の御発言は、五分以内におまとめいただくこととし、小委員長の指名に基づいて、所属会派及び氏名をあらかじめお述べいただいてからお願いをいたします。
 御発言を希望される方は、お手元のネームプレートをお立てください。御発言が終わりましたら、戻していただくようにお願いいたします。
 発言時間の経過については、終了時間一分前にブザーを、また終了時にもブザーを鳴らしてお知らせいたします。
 それでは、ただいまから御発言を願いたいと存じます。

○倉田小委員 自由民主党の倉田雅年でございます。
 この公務員制度改革大綱というのを見ていますと、二十三ページあたりから公務員でございますが、「適正な再就職ルールの確立」というのがあります。
 私、かねて思っているんですけれども、自分の子供が実は官庁に勤めております。本省です。そういうことを見ていますと、夜中の二時、三時に帰ってきて、七時に出ていく、こういう実態。一年じゅうじゃございませんが、特に予算関係をやっているときなんか、そういう実態もある。一方、それでいながら、実は、残業手当ですか、これは十分にもらえていない、こういう実態もあるんだそうです。
 そんなのを見ていまして、いつも思いますのは、この際、退職勧奨制度というのが五十一、二歳ごろであるんだそうですけれども、あんなことは一切やめちゃう。それからさらに、少子高齢化というのを先取りする形で、定年を六十歳じゃなくて思い切って六十五歳くらいまでにしちゃう、そうすれば、公務員がいわゆる天下りをしなくても済むような制度になるんじゃないかなということを考えるんです。
 もっと言いますと、特殊法人なんかむだなのがたくさんあると言われますけれども、これは公務員が自分が行く先がないからつくるという要素も実はあるんじゃないかと私も思っておりまして、そういうこともなくなる。渡り鳥なんということも、ちゃんとした残業代を払っておけばいいんです。一生涯通じてやったら、恐らく、働いている割には相当賃金が少ないんじゃないかという感覚がありますから。
 ということにしますと、特殊法人、むだなものは全部整理しても構わぬということになりますし、本当の意味での行革というのはこの一点に尽きるというのが私の持論でございますけれども、この機会にお話をさせていただいた次第です。

○春名小委員 一言だけ発言させてもらいます。
 ILO勧告についての位置づけが議論されているので、申し上げたいと思います。
 ILOに日本が加盟したときに、ILO基準が各国に一律にかつ一貫して適用されるということを、既に日本政府が確認をしております。さらに、あらゆる政府は、ILO条約を批准することにより負うコミットメントを十分尊重する義務がある、こういう原則を受け入れて加盟しているということ、しかも、日本国憲法が九十八条で、締結した条約の遵守義務ということも定めていますので、今の政府の姿勢は、中身自身が問題だ、だから誤解があるということで突っぱねるという姿勢ですから、これはみずからの加盟した基準あるいは日本国憲法の精神からいっても、そういう扱いをすることは許されないものなんだということを明確にしておかなきゃいけないと思うんです。
 もう一点だけ。同時に、きょうお話を聞いていまして、例えば、法のもとの平等と性による差別を禁止するということが、憲法十四条で、理念で明記されているわけだけれども、ところが、参考人からもお話がありましたように、賃金格差その他男女差別というのは依然として厳然としてある、やはりそれを解決するということが今課せられている課題なのであって、三つの提案もしていただきましたけれども、私は非常に重要な提案として受けとめました。
 それから、二十七条、二十八条では、労働と労働基本権について、柔軟で弾力的な規定なんだということも提起もされて、これを生かしていくことが大事だということが述べられたと思います。その点では、今申し上げた公務員の労働基本権の制約問題というのは、やはり焦点になっている問題として、憲法を実現していく上で避けて通れないものになっている。
 こういったことを、憲法調査会で、引き続き、きょうの議論を踏まえて深く掘り下げることは、国民の期待にこたえることになると思いますので、ぜひそういう方向で進んでいってほしいと思います。
 以上です。

○平林小委員 春名委員の御意見がありましたので、私の見解を手短に申し上げておきたいと思います。
 ILOという存在が、春名委員のおっしゃるような受け取り方は、私は必ずしも適切でないと思っております。例えば、各国の公務員制度を、ILOが普遍的にこうあるべきだなんと言うたことはほとんどないと私は思うんです。日本の労働団体が提訴をする、その提訴にこたえて審査をして勧告したり、あるいは年次報告の審査をして勧告したりするようでありますけれども、ILOの仕組みというのは、必ずしも各国の主権を侵害するというわけにもいかないものでありますし、条約を批准するかしないかということも、これはいわば各国の主権に基づいて自由に判断さるべき問題でありますから、春名委員のおっしゃるような最高性というものは、私はないものだと。
 むしろ国内で、日本の国の実情に応じてしっかりした公務員労働制度をつくっていく、国民の幸せになるようなものをつくっていくということの方を重視して議論すべきだと思っております。
 以上でございます。

○金子(哲)小委員 今、平林委員がお話しになったことも関連しながら、少し私の意見を述べさせていただきたいと思います。
 もちろん、ILOの勧告をすべて、それを全部受け入れるかどうかということは、我が国に主権がある限り、そこで判断することになると思います。ただ、ILOは国際機関としての位置づけがあるわけですから、その全体的な国際状況の中における労働問題をどう考えるのか、そしてそれが、日本における労使の関係というものがどのような状況にあるのかという前提に立って、少なくとも国際的な基準のもとにあって、こうあるべきだという勧告を出しているという位置づけは、間違いないというふうに私は思っております。
 ですから、よく言われますように、今、国際社会の中にあって、我が国もさまざまな活動をしているわけですから、そういう国際機関との関係を、全くの民間機関がやっているわけでも何でもなくて、国連の一機関であるILOの機関が意見を言ったということは、それなりに尊重されて、それなりに国会内においても尊重しつつ論議をするということが重要だと。
 よって、その意見をどのように国内法的に解釈をしていくのかということをやるべきで、今、国会の中で論議をされているのは、ILOが言おうと何だろうとも全く関係ないとは申し上げませんけれども、そのようなやや乱暴な、平林委員の意見がそうだということではなくて、国会の論議を見ておりますと、そのような意見も散見されますけれども、我が国が国連に加盟をし、そしてその中にあるILOというものを考えるときには、やはりそれなりの位置づけと勧告というものを重視しなければならないんではないかということだと思います。
 しかも、公労協などが、私も公労協の組合の一員をしたことがありますけれども、ILOに提訴をしなければこの問題が国内的に解決できないという労使関係にある日本の状況というものを、もっと我々はある意味では深刻に考えなければいけないのではないかというふうに私自身は考えております。
 もう一つ申し上げたいのは、憲法に労働三権が書かれておりますけれども、労働三権というのは、そもそも憲法に保障される前に、世界的な労働者のさまざまな闘い、運動の中にあって、ようやく労働三権というものが確立をしてきた歴史があり、それは、戦前には認められなかったものを今の憲法の中では保障していくという歴史的な前進があったわけです。
 その中にあって、公務員の問題は国内的なさまざまな取り組みがありましたけれども、やはり国家公務員といえども、労働者という立場にいる限り、労働者としての権利、労働者としての保障されるべき点について、どのように保障していくのか。
 ですから、私が言うのは、労働三権をすべて今の時点で認めるのがいいのかどうかということは、いろいろ論議があると思います。ただ、先ほど申し上げました、例えば消防職員の団結権をなぜ阻害しなければいけないのか、こういうふうな一つ一つの課題として、そしてまた、労働基本にかかわるようなことは、もっと労使交渉で少なくとも決めるべきだ。しかし、これが国策にかかわるような問題にまで発展するとすれば労使案件にはなじまないから、これ以上は労使の協議事項ではないということは出てくると思いますけれども、そこのところの論議もないままに、今この公務員制度の労働基本権の制約の問題について話をされているのではないか。
 そして、あたかも人事院制度があるから三権を奪ってもいいんだというような論議もありますけれども、そもそも、労働三権を保障しないために代償として出された人事院制度が、そちらが金科玉条のごとくなって論議がされるということは、私は問題があるのではないか。
 憲法に保障された労働三権をどう回復していくのか、その上に、どこまで回復できるのか、また、できないとすればどう代償措置をとるのかということを、新たな視点に立って、二十一世紀の新しい時代を迎えたときに、やはりもっと詰めて論議をすることが必要ではないか。しかも、公務員制度の身分にもかかわる問題もこの公務員制度改革大綱の中では出てきているだけに、あわせて今論議をする重要な時期ではないかというふうに考えております。

○平林小委員 小委員長、大変恐縮ですが、簡単に。
 反論というわけではありませんが、やはり公務員の労働権というものは、国会できちんと議論をして、それで法律でその基本を定める、このことはもう間違いないことでありまして、その考慮要素の一部分としてILOの報告とか勧告というものが取り扱われるべき問題で、法律、憲法の上位にあるものではない、そういうことを改めてはっきりと申し上げておきたいと思います。

○今野小委員 この三時間を超える小委員会、大変大事だということを知りながら、ほかの会合と重なったりしますと、なかなか全部出られない。途中中抜けしてしまったことを恥じながら、参加した部分のところから発言をさせていただきます。
 男女共同参画の視点から見た働く権利ということからすると、きょうは大変おもしろい議論があったと思います。委員の中の一人が、憲法に家族が助け合うということが書かれていないというような問題提起もあって、いまだにそういう感覚をお持ちの方がいらっしゃるのかとちょっと驚くわけなんですけれども、それでは今、愛し合い、助け合っている家族は何なのだろうと。
 書かれていなくともそのようなことは当然実現するわけでありまして、一たび文章としてそれがあらわれたときに、一つの規定と枠をはめるということになってしまうわけでありまして、むしろ、そういうことよりも、夫婦の多様なありようを認める社会、一方が働いたり、あるいは専業の男性主夫になったり、そういう夫婦の多様なありようを認める社会について、私たちは国会を通じて国民的なコンセンサスを求めていくということが必要なのではないかと思います。
 むしろ、私は、夫婦の多様なありようを認める社会をつくるために、男性の育児休業ですとか、あるいはそのための夫婦が話し合った上での男性の休職、その後の復職あるいは再就職、そういうところに、すんなりと求めている社会に復帰していける、スライドしていける、そういう社会をつくるための努力を、話し合いを、議論をしていかなければならないのだと思っております。
 以上でございます。

○春名小委員 ごめんなさい、一分で終わりますので。
 平林先生がいなくなっちゃったんで、言う相手がいなくなったんですけれども、私が言っているのは、ILOに加入して、八十七号条約、九十八号条約、批准しているわけですよね、日本は。だから、そのみずから選択している目から見たときに、改めて、公務員制度改革を今議論しているときにこれを無視していいのか、先送りしていいのかという問題提起がされているわけですよね。そのことを日本の政府、日本として受けとめて、みずから主体の問題として議論すべきなんだということを言っていると思うんですよね。
 だから、何か上位下位の問題で、私たち、法律が上位であって条約は下位であって、そんなの無視したらいいんだ、そんな話をしているんじゃないんですよということを申し上げておきます。いらっしゃらないので済みませんが。

○大出小委員長 ほかには。
 会長、私、発言してよろしいでしょうか。――小委員長をやっていますと、しゃべる機会がなくて大変困りまして……。
 ILOの問題でございますが、どうも誤解があるようで、中間報告ということをおっしゃるんですが、野党がILOに行きましてお話などを聞いてきますと、いや、そうではないんだと。勧告を出したということは、なぜ中間報告かというと、日本の公務員制度改革を見直して労働基本権を確立しなさい、そして、労使でお話をしなさい、こういうことを言って、公務員制度改革がILOの勧告のようにちゃんと直るかどうかを見るから、見ようとしているから中間だというんですよね。ですから、もしやってくれなければ、また勧告出しますよ、あるいはもっと強いこともやりますよ、こういう話なんですね。
 それで、専門官のキャリエール氏なんかは何を言っているかというと、四十年間我々は辛抱してきたんだ、今度は日本政府が動くときなんだ、こうおっしゃっているんですよね。まさに日本政府が世界の常識に合うようにどういう公務員制度を改革として出してくるかを全世界が見守っている、こういうことなんですよ。ですから、そこのところは誤解のないようにしていただかないとと思っているところでございます。
 そしてもう一つは、早期退職慣行、勧奨退職という制度についても、私は総務委員会で質問しまして、これはどちらが先かわかりませんが、例えば事務次官さんができると同期の人がみんなやめていくのが先なのか、この制度があるからそうなるのかわかりませんが、どうもそれはよくないのではないかと申し上げて、必要であればもっとお金を出してあげてもよくて、本当に天下りをしないでも済むようにしなければいけないのではないかと、それは申し上げたことがあるんです。残念ながら、特殊法人が独立行政法人になったら人はふえているんですよね、千人ほどふえていまして、これはやはり、公務員が外れてもふえているんだとすると、私は正直なものですから、日本の公務員の数は諸外国より少ない。千人に対して四十人ぐらいしか公務員がいなくて、アメリカの場合には、一般人千人に対して八十人いるんですね。イギリスは千人に対して八十三人も公務員がいるというのに、それが日本は四十人ですからね、半分なんですよ。
 ところが、現実はそうでなくて、公務員を外してほかに行っちゃっているんですね。だから、これではたまらぬなと思いまして、そういう意味でのまともな制度改革を行っていただきたい、そう考えております。失礼をいたしました。
 他に御発言ございますか。
 それでは、討議も尽きたようでございますので、これにて自由討議を終了いたします。
 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。
    午後五時五十一分散会